2020.12.17(1-p.365)

朝は寝坊。でも母が仕事に出る気配でなんとか這い出て、いってらっしゃいといってきますを言う。もう一回寝る。父が朝食を支度してくれる。ホットサンド、サラダ、ヨーグルト。食べながら本棚を眺め、今回パクる本を吟味する。『スノビズム』、『大江戸座談会』、『ある首斬り役人の日記』、『商人たちの共和国』に決める。『イモと日本人』は買ったばかりとのことで、パクるのはまた今度にした。パクる本は荷物に入り切らなかったので後日送ってもらうことに。

父に名駅まで送ってもらう。昨日のトークは面白がってもらえたようで嬉しい。車中のおしゃべりも良かった。欲望、中動態、信仰。「お金以外の尺度で回る場所があれば、みたいな話してたけど」と50円おにぎり食堂のことを教えてもらう。名駅から歩ける距離だったので、父と分かれ、味仙でランチした後に行ってみる。明るい店内で、出来合いのパックを買おうとしたら、好きなの握るけどいいの? と気持ちよく促されたので、お言葉に甘えて好きなのを頼む。お茶でも飲んで待っててね、とのことで、ゆっくりと店内を見渡す。おにぎり二個で100円。寄付をしてもしたりない気がした。でも背伸びするのも違う気がして、無理のない額を募金箱に入れる。ここのことは父に教えてもらって、これから名古屋発つんだー、と話していたら、そうなの、じゃあ、これほんとは子ども用のやつなんだけど電車で食べてね、とたくさんお菓子をいただいてしまった。寄付しに行くつもりでいたのに、釣り合わないほどのものを受け取ってしまった。また帰省の理由が増えたな。

ひとやすみ書店のTwitterで、『プルーストを読む生活』が板書されている! うひゃーとなり、すごいすごいとはしゃいだ。松井さんが「本が展示されて心底嬉しいものトップが、ひとやすみ書店の看板と東京堂のベストセラーです。ということで、めちゃくちゃ嬉しいです!」と言っていて、わかる、となり、となると次は東京堂のベストセラーだな、と思うのは自由なので思った。

新幹線に乗る。関ヶ原は雪景色。車中はカルナサンタ。

京都についてひとしきりバスの乗り場で迷う。『まともがゆれる』を思い出していた。

ホホホ座ねどこについて、一息。すぐに階下に降りて、古本を眺め、山口昌男『笑いと逸脱』と松本さんの『徒歩』を買う。実はプルーストのやつを書いた柿内なんですというと、あらそうなんですねえ、と言ってくださり、そこから松本さんとおしゃべり。淑ちゃんのアトリエそこだったんですよ、と教えてもらい、知らなかったので、嬉しい偶然にはしゃぐ。「淑ちゃん」という言い方の優しい感じがよかった。ダムタイプやスペースネコ穴の話。「霧の街のクロノトープ」を教えてもらう。明日行く。 

斜向かいの浄土寺店へ。松本さんがさらっと山下さんに紹介してくださる。山下さんはへえ! と喜んでくれて、サインしといてください! とニコニコと僕に言いつけて颯爽と去っていった。サインはやっぱり慣れない。見事に書き間違える。書き損じてるサイン本はホホホ座でしか買えない。なんかそれもホホホ座ならいっか、と勝手に思ってしまったが、いいのだろうか。ふといつかガケ書房でまだ毛皮のマリーズだった志磨遼平のマンガが掲載されてるZINEを買ったなあと思い出す。脈絡はない。

すでに日は暮れかけていて、次は誠光社。堀部さんはいらっしゃらなかったがお店の人にご挨拶して写真を撮らせてもらう。『90年代のこと』と『恥ずかしい料理』を買う。お腹が空いて目が回ってきたので、向かいのいい感じの店──マルキュウという名前だとあとでわかった──でおでんと日本酒ではじめる。白子わさび、ホホ肉の炙りポン酢。ぜんぶおいしかった。最高の判断。

日本酒で温まった腹で歩いて、お次はInstagram で「読むということを、ここまで書くか?」と書いてくださったレティシア書房。20時までと思っていたら19時までで、閉店間際になってしまった。脊髄で本を選び、『民のいない神』と植草甚二──いつだかZINE版を読んでくださった方が植草甚二ぽいと書いてくださっていたが読んだことがない──をレジに。こんにちはと挨拶すると、こんなに分厚くいと思わなくてあちゃーと思ったけど、パラパラめくってあっこれぜんぶ読まなくてもどこから読んでも大丈夫なやつだ、と思って安心した。小西さんはそう愉快そうに話してくれた。

宿までの帰り道、黒田さんのインスタグラムでの投稿を見てすこし目頭がじんとする。いいものができたと思う。これからもっといいものにしてもらえるといいね、と自分の本はもう孫なので、祈るような気持ちで歩いた。

宿に帰って日記を書きながら50円おにぎり食堂のおにぎりを夜食に食べる。ちりめん山椒と明太子。びっくりするくらい美味しくて、300円でも不思議でないくらい。慈善なんだし食べられるだけありがたいでしょ、というのでなく、ちゃんとすごく美味しいものを出す、それで50円で成り立たせてしまう。全ての人はパンだけでなく薔薇に値する。そういう態度にものすごく感動している。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。