より楽しい雑談のために──『雑談・オブ・ザ・デッド』

Ryota さんとの共著『雑談・オブ・ザ・デッド』が発売中です。

『雑談・オブ・ザ・デッド』は基本的にゾンビ映画を観て、感想をわいわい語り合うという内容の本ですが、ゾンビが苦手な人にもおすすめの一冊です。本書はゾンビの本である前に、雑談の本だからです。

そもそもこの本は映画評論としては裏付けが弱く、ゾンビ表象の概観を示すものとしても不正確です。だいたいその場の思いつきで、勘違いしたり盛ったりして放言しているのをそのまま書き起こしています。あくまで素人同士のただの雑談なのですが、コンテンツを楽しむ際にいかに人文知を導入するか、という実践の書であります。いちおう対象はゾンビだけれど、ここで行われていることはどんなコンテンツにも適用できるはず。

自分の好みや共感などに引きつけるのではなく、かといって構造の分析に拘泥するでもない、作品の内外の論理を行き来しながら面白がること。これは僕の読書の基本スタンスでもあります。今回の本はそうしたスタンスの実践の書としても読めるので、「コンテンツの楽しみ方」に関心のある方にこそおすすめです。

共著者のRyota さんの素敵なところは、着眼点の精確さや解釈の面白さはもちろんなんですが、そうした高い言語化能力が基本的に「面白がる」ことに全振りされているところ。盲目的に褒めるでも貶すでもなく、一個の作品内に輝くところとモヤモヤするところを両方ちゃんと見つけて、そのどちらもを楽しそうに語る。

批評的な鑑賞の仕方というか、触れた作品について自分で解釈し言葉にするという最高の遊びは、どうしても駆け出しの頃は「正しさ」やトレンドといったものさしを一つだけ持ってきて断罪したりジャッジしたりというやり方に陥りがちです。でも、批評的態度というのは作品に託した自分語りでもありつつも自分よりももっと大きなものに遭遇した時の「なんかわかんないけどすげえ!」という興奮を、丁寧に点検し、共有可能な形に再構成することで、誰かと分け合うことができうるものでもあります。

人懐っこく、どこまでもばらばらな個々人の世界観を見せびらかし合うというあり方の方が、一意に決めた「正しさ」の共同体に集って頑固になることよりも、僕は好みですし、基本的に成熟したやり取りというのはそういうものだと思います。

ゾンビ映画を始めあらゆる映画って基本的に今の「正しさ」のものさしだけで観ると「最悪」以外のなにものでもないものも多いんですが、Ryota さんや僕のように別のものさしを何個も持ってきて、面白がりポイントを探っていく態度は、なんというか、かなり陳腐な言い方ですが、友達を増やします。友達を増やすのって、孤独を保つことと同じくらいに重要で、それは馴れ合うことではなくて、むしろ苛烈にお互いの解釈戦略をぶつけ合うための関係だと考えています。

『雑談・オブ・ザ・デッド』は、馴れ合いと争いのどちらの極にも振り切ることなく、お互いに真剣に作品に取り組む楽しいおしゃべりの記録です。

よく読むと、はじめはまだ遠慮のある二人が、雑談を通じてだんだん仲良くなっていく記録にもなっているかもしれません。

読書ってそもそも誰かの会話に自由に混じっていくような喜びがあるように思います。よろしければ、この本を通じて、一緒におしゃべりしませんか?

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柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。