2022.07.25

『シン・サークルクラッシャー麻紀』は続編じゃなくてリブートだったらしく、でも元の麻紀は序盤も序盤で終わり、そこからは部長や誰かもわからぬ作家の小説の作中人物たちの、就職後のありふれた疲弊がリズミカルに叩きつけられる。文学がプペルに敗北する時。その描写に僕は入社直後の自分を見るようで笑うに笑えなかった。マルキストやアナキストが既存の資本主義批判によって金を稼ぎ豊かになっていくと言う欺瞞に嫌気がさし、徹底的して軽薄かつ酷薄に金を稼ぐ人たちの下品さのほうがよっぽど「まとも」に見えてくる、そうやって知性や品性を放棄したくなる瞬間が、僕にも何度あったかしれない。本も読めず思考も停止し、家に帰ってもほとんど何も喋らない。そんな危機的な時期に奥さんと暮らし出して、かろうじて今くらいには持ち直しているけれど、あの時うっかり奥さんと暮らし出すことがなければどうなっていたかわかったものではない。佐川恭一作品の露悪は、その極端さにゲラゲラ笑いつつ、自分も自棄を起こしたらどこまでいくか分からなかったな、というような怖さにぞっとさせられるから油断ならない。このあけすけさは、油断がならない。それこそ自覚的にプペル的なものを文学の場で克明に描き出している。ホラーやエロのジャンルの低俗さは、ある種最大公約数的な人間の陳腐さをあっけらかんと暴き出してしまうから、お上品な人たちに嫌われる。自身の低俗さを自覚しつつもなるべく品よく生きようとする僕のような人は、冷徹になされるおっぴろげを前に、ついついにやけてしまう。いやあ、これは、やられたなあ、そんなふうにされちゃ、いや、困るよ……

感染者数の増加を前に出社の比率は増えていく一方で、会社への信頼度が著しく損なわれる。合理性のない判断に従うことにどうしたって嫌悪があるし、もとから低い勤労意識は低空飛行。もはやどう上手に休むか、事務所滞在時間を最小化するかしか興味が湧かない。とにかく家で寝てたい。もう安心して顔面を風に晒して外を出歩く日は来ないのかもしれない。めそめそしてくるな。月曜日だから。

奥さんは今週で毎晩遅くまで働く日々に一区切りだそうだ。今日も遅くまでよく頑張っていた。夕食を終えるともう二十三時とかだ。奥さんはテトリスのマッチバトルで世界二位にまで上り詰めたりして気晴らしをする。面白い日記書いてね、と言い残して。面白いことなんてない一日でも面白い日記は書かれうる。面白いことばかりの日の日記ほどつまらなくなりやすいものもない。だからその日の質と、書かれる日記の性格というのは実はあまり関係がなかったりする。着想などなくても日記は書ける。しかしなんの観察も思案もない日記が面白いはずもない。今日の僕はどうだろう。しみったれていただけだ。しおしおのぱーだ。いいこともあった。ネロちゃまとの絆が14になったのだ。スクリーンタイムの制限時間を無視して周回しまくった。最近のマルイではデント・メイがかかっている。『Late Checkout』を聴きながら日記を書いた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。