2022.11.26

家を出ると雨が降っていたが面倒なので傘を取りに戻ることはせず、リュックから折り畳みを取り出すことすらせず、コートのフードをかぶってそのまま歩き出した。午後からは晴れるらしく、なんだか今日は意地でも傘をさしたくなかった。駅までもそうだし、事務所までの道のりもそうだ。僕は絶対に傘をささないぞという気概があった。イギリスでも暮らしていけるかもしれない。東京に雨が降るのは一年のうち百日程度らしい。新潟のあたりは百七十日も雨らしい。本当だとしたら僕は上越には住めない。イギリスの降水日数は東京よりも少ないらしい。僕は騙されていた。イギリスのほうが降っていないなんて。そもそもイギリスは天気悪いってどこで刷り込まれたのだろう。誰が、何を根拠に? 快晴の日がすくなくて、日照時間が少ないんだろうか。

僕はいつまで『HUNTER×HUNTER』の話を続けるんだろうか。夢中になりかたが、『ハイキュー‼︎』や『SLAM DUNK』のときと似ている。つまり『HUNTER×HUNTER』の面白さはスポーツ漫画のそれなのだ。ルールの把握→作戦→練習→試合→検証の流れがしっかりとしているからこそ、試合中に拡張される時間感覚が映える。‬‪方法論がスポーツ漫画のそれなのに、『HUNTER×HUNTER』はゲームや世界のルールから創作するから、スポーツとちがってもともと読み手が持っている経験に依存せず誰もが楽しめる。また、試合のバリエーションも無限にありうる。ルールがあるからこそ思考がドライブする。プレイするゲーム自体が変わっていくので、‬物語が長期化するにつれて強さのインフレが起こることもない。とにかくパワーがあればいいというのではなく、ゲームの特性との相性や戦術の質がものをいうからだ。ジャイアントキリングが大雑把な根性論だけで為されるわけではなく、綿密な計画と現場での細密な機転によって支えられている。そうであるからこそ根性が活き活きとする。根性は悪ではない。孤立した根性が空しいだけだ。根性に熱くなるためにも準備がいる。スポーツ漫画はそれをやりやすい。バトル漫画はすぐに雰囲気だけになる。バトル漫画にスポーツのルールを持ち込むこと、それだけですごく面白くなる。すごい。

全身なぞの筋肉痛があり、ふくらはぎや背中にだるさがある。どうしたらいいんだろうな。帰ると日中にマッサージに行ってきたという奥さんが受けた手技、というより肘技の数々を再現してくれて、背中がメリュッメリュッと音を立てて軋んだので叫び声を上げた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。