2023.02.26

『MANKAI STAGE『A3!』ACT2! 〜WINTER 2023〜』の千秋楽。立川ステージガーデンは評判の悪い小屋だけれど、これまでわりといい席なことが多くて、これだけ来ると実家のような気持ちさえある。きょうは13列目の上手端の席で、配信のカメラがすぐ右隣に構えてあった。開演前は駅前のクリムトで朝ごはん、ブランチをエミリーでいただいて、オリオン書房で国書刊行会の周年トートバッグまで手に入れたからごきげん。開演前の緊張感。紬の開演前挨拶へ送る拍手がいつもより長かったり、その時点でななめ前の席の人が泣き出していたり、そういうのにあてられて私まで泣いてしまった、とのちに奥さんは語ることになる。一幕終わりのカタルシスはやはりすごくて、二幕の劇中劇は先月観た時はガイさんがあまりに圧倒的だったが今回はみんなしっかり声が出ていてバランスが取れていた。冬組としてとてもいい状態で、嬉しかった。初見時から、こんなん大楽で泣いちゃうに決まってる、と思っていたシーン。あの泣き虫の咲也が、ちゃんと「荒牧の紬」が自分の台詞を噛み締められるように、これまでのステージと同じようなトーンを守って受け答えするのでもうダメだった。どれだけ名残惜しくても、作中のキャラクターはこれからも季節を送り続ける。別れの気配だけは濃厚に漂わせておいて、それでもなお紬であることをぎりぎりのところで手放さないまま、幕が降りる。俳優の実在よりも、キャラクターのそれを幻視させることを優先する。劇場にいた誰もが、もういいんじゃないか、と思っていたであろう一線をそれでも越えないという選択を好ましく思う。なんだかんだでめっちゃ泣いた。泣きたいわけじゃなかったのに。泣きたくないと思っているはずなのにそれでも泣いてしまう人たちを見ていたらどうしても泣いてしまった。塩辛をつまみに酒を飲みながら、僕は、エーステが好きだな、としんみりする。春巻やおでんもおいしかった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。