実家で目覚める。自宅の睡眠環境を万全に整える弊害は、べつの場所でなかなか眠れないようなわがままボディになってしまうことだ。昨晩はなかなか寝付けず、radiko で早見沙織が早朝にやっている音楽番組を聴いて入眠を促進しようと考えたのだが、会員じゃないからエリアフリーは使えませんといわれてしまって、そうか、ここは東京ではないのだな、あの番組は東京地方でしか聴けないのだなと思い至る。そこからは早かった気もする。気を失うようにして寝た。嘘。寝る前にジャンプのワンピとヒロアカだけ読んだ。いちど朝に父を見送るために起き出して、また寝て、十一時くらいに起き出してトーストを焼いてコーヒーを淹れる。なんだかんだでよく寝れた。お昼休みに父が帰ってきたので三人でおしゃべり。ポッドキャストでちいかわの悪口を言っていたけれど、ちいかわは可愛いし、生活のために働いていないから理想の暮らしだよ、とのことで認識の違いにびっくりしてしまう。アニメ版ではキメラみたいなのとか、その討伐とか、そういうのは見たことがないという。僕は漫画のイメージを過剰にアニメに投影していたのだろうか。トーベ・ヤンソンが激怒したというムーミンの和製アニメみたいなことだろうか。いやしかし奥さんはアニメだけ見て怖がっていた。僕はやはりちいかわについて語っていると頭に血が上るようでずいぶん一生懸命に語ったのだが、両親は首を傾げて、かわいいのに、と言うばかりなのだ。僕は、エーッ!? なんでェ? なんでェ?と繰り返し訴えを続けたが甲斐なかった。
午後から母とお出かけ。ON READING でちょうど箕輪さんのハンカチの展示が始まっているはずだったので見にいく。黒田さんたちにごあいさつして、あれこれおしゃべり。デニーズのハンカチと灯光舎の「本のともしび」シリーズの棚にあったものをぜんぶ、『そだつのをやめる』を買う。フローペーパーもたくさんいただいてほくほく。両口屋是清で手土産を買って祖母の家へと車を走らせてもらう。車内では僕のiPhone もカーステレオに繋げるから、藤井隆とBUCK-TICKをかけていた。車で音楽を流すというのはいいな。きのう三島でも思ったけれど、車のある暮らしというのは具体的に人間の行動範囲を拡張するから、せいぜい自転車しかない都市よりもずっと文明的である。都市の方がサイズは人間的で、地方の方が個人の身体感覚を遥かに超えた範囲を日常づかいのなかに取り込んでいる。すごい。僕はもう怖くて運転できない。一度物損事故を起こして教習所でさだまさしの怖い歌を聴かされてからどうもする気が起きないのだ。完全にさだまさしのせいである。
祖母宅に着くと庭にいたハルがはしゃぎまわって室内に入ってきてしばらくあちこち走り回る。撫でていると不思議と猫たちも寄ってきて尻尾や頭を腰のあたりに擦りつけてくる。嬉しくなって触ってやると嫌がってどこかへ行ってしまうから、猫たちがいかに興味があるふうに近づいてきてもひたすら犬だけに構ってやるようにするとよくモテたので嬉しかった。祖母もお元気そうでなにより。紅茶を淹れていただいておしゃべり。みんなWBC を見てる。ずいぶん面白かったらしい。話を聞くだけでも漫画みたいだった。伯父とスーパーまで夕食のとんかつ弁当を買いに行って、祖母と叔母がこんなには要らないというので二人からごはんを三分の一ずつくらいもらうと量はほとんど二倍でさすがに満腹。猛烈な眠気に襲われた。今日は一族の歴史をいろいろと聞けて面白かった。ほんの四世代くらい遡れば明治なのだ。大河ドラマみたいなエピソードがどんどん出てくる。いつかこれを書き留める日が来るのだろうか、という考えがはじめて湧いて出てきたが、どうなんだろう。
祖母宅を出て、そのまま母に鶴舞公園まで送ってもらう。幼馴染とその夫と三人で夜の花見。はじめて来たけれど出店がたくさん出ていて、平日の夜だというのに、いやだからこそだろうか、スーツ姿の酔客がブルーシートの上で楽しげだ。若いカップルもあちこちで浮ついて、これはもうお祭りだ。僕が目を丸くしていると、毎年きているらしい幼馴染はこともなげに、花火のない花火大会のようなものだよ、という。僕は満腹だったのでコンビニで買ったシードルをちびちびやるだけにして、二人がどて煮やたこ焼き、おでんなんかをぱくつくのを眺めつつ、あれこれとおしゃべり。二人とも小説を書いているのだけど、小説と一口にいってもそれはあまりに多義的であって、このの指示対象も問題意識も三者三様で面白い。僕がいま考えているようなことは、小説という言葉でイメージされるものの総体の、ごくごく一部の領域内でしか通用しないものなのだよな、という当たり前のことを再確認する。たいへん楽しかった。家が近所なので一緒に帰って、また丘の上で別れた。よく遊んだ日というのは、日記を書き出す時間も夜更けであるし、出来事を羅列するだけで嵩張るものだから、くたびれているのに深夜まで起きていることになる。日記を書いているあいだ、早く寝たい、しか考えられない。読み返す余裕はないから、誤字も多そうだ。よし、ねる。