2024.05.11

賃労働終えて新宿の紀伊國屋書店でカハタレの稲垣さんと待ち合わせ。二階の新刊コーナーで合流して、町屋良平の小説の魅力を伝えていたら可愛らしい人に声をかけられる。美容院で髪を切りたての奥さんで、見せびらかしに来てくれたとのこと。奥さんはこのあと別のお友達と約束があるというので、新調したての顔を見せてくれたことのお礼を言って解散し、稲垣さんと二人で美味しい沖縄料理を食べながらビール、泡盛。労働で溜まった澱を洗い流すように、どんどんいこう。背後の席の一団が、令和の男としてそれは終わってる、と発言し、あらたなマチズモの発露の仕方だと思う。酔いが回り切る前に来月のワークショップの打ち合わせをし、即興での言語化をテーマにするとのことで、じゃあいまこの場で告知文を仕上げてしまいましょう、とグラス傾けつつぱっぱっと書く。隣で人が文章を書いてる状況、はじめてかもしれない、と稲垣さんは面白がった。

カハタレワークショップ6月第二弾は柿内正午さんによる即興にまつわるワークショップです。6/23日曜夜開催です。即興の権化、柿内さんが今飲みの席のこのワークショップの内容を即興で書いてくれています。

ここは稲垣さんが書いた。僕はここから。

◾️タイトル

日々の即興のためのワークショップ

◾️概要

ふだんのお喋り、居酒屋でのメニューの選びかた、日記を書くこと。毎日は何気なく、よくよく考えれば驚異的とも言えなくもない即興によって成り立っています。

考えてみれば演劇の上演において、俳優たちはあらかじめ準備された台詞や段取りを、さもその場その時に初めて思いついたことかのように実行することが求められていると言えるかもしれない。

即興の力を鍛えることは、いい感じの毎日を暮らすこと、さらにはいい感じの制作にも嬉しい効果が期待できるのかも。

当日は、おのおの日記を書いて、それを素材に即興演奏のように人とお喋りをすることを通じて、大したことのない日々の実践がもつワンダーへの自覚をひらき、毎日をもっと愉快にするため方法を探り、翌日以降の日課に組み込めるかもしれないトレーニングを編み出すことを目標にワークショップを行いたいと考えています。

この概要文も、新宿の居酒屋で、稲垣さんと打ち合わせと称して面白く飲み食いしながら、即興的に書かれました。

だから、ぜんぜん違うものになるかもしれないけれど、概ねそんな感じです! 楽しみにしてます。来てねー。

稲垣さんは瓶で頼んだオリオンビールを早々にグラスに注ぎなおすのをやめて喇叭飲みしだす。僕はそれを頼もしく眺めながらこう書いて、瓶の口を握りしめながらiPad を駆使して告知のためのブログを更新する様を見守る。それでじっさいに出来上がってツイートまでしちゃう。泡盛をロックでちびちびやる。お会計が8,888円で脳内で拍手が鳴り響く。

ふたり連れ立って銀行でお金をおろしてゴールデン街で飲み直す。同席した方に教えてもらったところによると、ドゥンクドゥンクとごきげんな音楽を聴きながらブラックホールの神秘についての講義が聴けるイベントが来月歌舞伎町であるのだそうだ。しばらくすると奥さんと共通の旧い友人がやってきて、カウンターを四つ占拠して話し込む。友人はいつも素敵で、きょうも爪がきらきらしていて、ほっそりした指が映えていた。なにより巧みな話術で稲垣さんの知る由もない他人の離婚話などを面白おかしく披露して、きゃっきゃっとはしゃいでいたらあっという間に時間が過ぎた。ああ、面白かった、と思いながら解散し、酔っ払った奥さんと二人で帰路につく。最寄りについたらアイスを買って帰ろうか。アップルパイのやつが食べたいがあるかなあと相談しながら日記を書いてしまう。目が乾き出して、しょぼしょぼと強めに目を瞑って、沁みるような感覚だ

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。