一四世紀半ば、ヨーロッパ中でペストが猛威を振るうさなか、フィレンツェの作家ボッカチオは『デカメロン』を著しました。これは「十日」を意味することばで、感染症対策で外出自粛を強いられた当時の老若男女十人が、十日間にかけて退屈しのぎの物語を披露し合うという体裁の小説です。
二一世紀、新型コロナウイルスの影響で外出もままならないなか、山村と都市に暮らす二人が、お互いのポッドキャストを行き来する形で十夜の配信をやってのけます。「二人のデカメロン」というプロジェクトは、このようにして始まりました。
本家『デカメロン』は、十人が日に一話ずつ、十日かけて百話を語り尽くすというものでした。われわれは百話を二人で達成させようとでもいうのでしょうか。本書は過去に交わされた二人のお喋りの書き起こしが二篇と、お互いに触発されて書かれたエッセイがひとり二本ずつ、計四本掲載されています。おしゃべりとエッセイを合わせて六話。おそらくこのプロジェクトは今後も続いていくのでしょう。
奈良県で人文系私設図書館ルチャ・リブロを構える青木真兵、東京で会社員をやりつつ文筆を行う柿内正午。八〇年代生まれと九〇年代生まれ。山村とシティー。年代も生活の拠点も離れた二人は、考え方の癖も、こだわりの偏りも、文章の臭みも、お互いまったく違っている。そのような違いを特に均すわけでもない。おのおの好き勝手にやった結果、このような本ができあがりました。
ここにあるのは大袈裟な対決でも、共闘でもない、ただのおしゃべりです。同じ方向を向いているようないないような、噛み合っているようないないような、でもお互いに真剣に相手の話を聞き、大真面目に自分の話したいことを言っているように見える。
本家『デカメロン』は、イタリア語の散文表現の嚆矢とも見なされているようです。対談の書き起こしという口語の文字による再現と、エッセイという文字から始まる文章表現。両者を往復する本書は、言葉を使って何かをするとはどういうことかを実践的に問うていると言えなくもありません。
マイペースを貫きつつ、不思議と気遣いにあふれたいい湯加減のやりとりを読めば、なんだかいい塩梅になるようなならないような。ぜひゆるりとご一読ください。
『二人のデカメロン』目次
はじめに ※試し読み公開中
対談 自己は薄いが、クセが強い 2023/03/25 東京の路上
青木真兵「源泉は生き物の部分 『ランボー』が教えてくれたこと」
柿内正午「声と文字」
対談 読む生活・書く生活・喋る生活 2023/11/10 ON READING
青木真兵「ピュシスを頼りに生きていく もう一つの『ベイブ論』」
柿内正午「レッスルする演技」
おわりに
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