2024.06.03

明け方、緊急地震速報で飛び起きる。恐慌をきたしたふたりは寝ぼけたまま抱き合って怯えたが揺れはこなかった。富山らしい。ついこの前行ったばかりの土地だ。いちどでも訪れること。それは耳にするだけではっとする土地の名を増やしていくことだ。二度寝すると寝過ぎた。最近また睡眠リズムがぐずぐずで、よくない。新居に越すまでに早起き人間に生成変化したい。今週は木曜にイベントで大阪だ。週明けすぐに編集している冊子の入稿だから、今週はさりげなくみっちりしている。こういうとき賃労働に身を入らないものだが、わりとそちらも逼迫しており、なんというか、やることがいっぱいある。毎日TIME BOX NOTE でタスクを管理しつつ、しかし他人の原稿というのはいつ来るかわからないもので、ぎりぎりであればあるほど即時対応が求められるので予定がどんどん狂う。待ちぼうけているあいだは『ずうのめ人形』を読んで面白く過ごす。それでも来ないので本棚を物色していると『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』と『政治活動入門』が目に入り、両方の表紙を見比べていると前者のタイトルと、後者の「そうだ、世の中のせいにしよう。」という惹句が呼応していくようで、これらをちゃんぽんすることにする。奥さんはライブに出かけていって、途端に雷雨になった。降られずに電車に乗れただろうか。きのうの傑作カレーを温めて、さらに鮭の唐辛子蒸しと納豆まで食べる。一人ご飯は雑にドカ食いしがち。お風呂の中で『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』を読み、お金のことを考える。お金なあ。ワクチンや補償の決着が不透明な時期は、それこそ誰もが不安を共有していたように思うが、大半の人がマスクを外して平気になってきた現在、この本に書かれているような安心を求める気分を他人たちと共有しているという確信のようなものは、ずいぶん薄らいでしまっている。これは自分の『会社員の哲学』についても感じるところで、どうにも今は、誰とも手を繋げていないような気持ちばかりが募ってしまう。あまり困った顔をしてみせるのも嘘だし、かといって強がって見せるのもばかげている。弱々しく、太々しい。そのような半端さの居場所が、いまがいちばん狭い気がしている。自分の身の置きどころがわからない。僕に似ている人は、どこにいるんだっけ。若い人が減っていく世の中で、若くも老いてもいない半端な場所で、下を助けるほどには余裕がなく、上にはまだまだ依存しているような態度で、ただへらへらしていていいわけがないのだが、日々なんとなく笑って誤魔化すばかりでないか。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。