濃いめにコーヒーを淹れてミニオンのお菓子を食べる。昨晩帰ってきたら郵便受けに文芸誌が詰まっていたのをとりあえず机の上に積んでいた。ほかにも紙ものが散らかっている。『群像』は入らなかったら上まで届けに来てくれたらしい。それらの封筒を開けるところから一日を始める。出社は午後からでよかったから、午前のうちに冊子編集の工程管理、メールの返信、きょう持っていく文芸誌の選定。芥川賞の上期をねらうのが先月までに出そろった形だろうから、今月の創作はそんなに多くはない。批評特集の『群像』にいたっては単発の掲載はないのではないか。いちばん面白そうなのも『群像』だから、文芸時評の仕事を済ませた後のお楽しみにとっておこう。となるとまずは『文學界』か『新潮』から取り掛かろうか。洗濯機もまわしておいたから取り込んで、早めのお昼としていか焼きを湯煎する。おいしい。なんだかんだで午前中も休まらず動き続けていて、これからの一週間で引越しや新居の現状確認と打ち合わせなども大詰めだし、再来週には冊子ができあがっていないといけないし、カハタレのワークショップの準備もある。月末には二度目の融資の手続きもあるから、時評はなるべく早めに、理想的なのは来週の前半であるていどの目処は立てておきたい。別に書評もあり、こちらのほうが〆切は早い。これもあと二週間で仕上げるべきなのだが、ある程度の草稿はすでにあるので気は楽。これらのほかに賃労働のタスクもあるが、それは就業時間の範囲内でだけ考えればよいとはいえ忙しく、遠出したあっとはいったん日常が停止して数日腑抜けてしまいがちな僕としては恐ろしいほどに止まる時間がないまま動き続ける必要がある。これまでも忙しなかったが大阪で区切りな気がしていた。そんなことない。しかし引越しと賃労働だけでもやばいのにわざわざ用事をとってくる自身の柿内正午面の気が知れない。ばかなのだろう。というわけで来月の引越しまでは予定がぎゅうぎゅうだし、引越しはモノを移動させてからがたいへんだろうし、夏まではてんてこ舞いだ。てんてこ舞いっていい言葉だよね。踊れ踊れ~
きのうの日記をざっと書いて、大事な日の日記ほどざっとになる。そうするしか書き終えられない。そういえば「週刊読書人」も届いていて、時評の掲載号だったかもしれないと思って調べるとそうで、じゃあメルマガも出さないとと準備して出した。そのままの勢いで今日のぶんの日記も書き始めてしまうと、スケジュールの余裕のなさが顕在化する。退勤後に映画でも、と考えていたけれど、しっかり文芸誌を読んだほうがいいかもしれない。などと思いつつ盛り盛り定食をばくばく食べて、チケットを買ってロビーで『文學界』を読みながら開場を待つ。はじめは広告や予告編だろうからしばらく読んでから入り、『チャレンジャーズ』。めちゃ面白い! コート上で男たちの間を行き来するボールと、それぞれの男が客席にいるゼンデイヤと交わしあるいは交わし損ねる視線とが、どちらも鋭く高速に複雑に絡み合う。テニスの試合にかぶさるテクノに乗せられてリズミカルに挿入させる回想シーンで描かれる恋愛模様は、均整の取れた正三角形を保ち続ける。三人の人間の関係性として想像しうる六種の受け攻めがすべてあり、それらを成立させる狡猾さや冷酷さもフルに発揮されることで、三人の誰もが添え物にならない関係がそこにはあり、しかも目まぐるしく様相を変えていくのだ。主人公たちのキャラクターも立っていて、見たいカップリングを全パターン見せてくれるのだから自分の内の全オタクが歓喜する。オンリーイベでビッグサイトが埋まり、すべての左右が公式で最大手。二人の男が一人の女を取り合うというのは女がホモソーシャルの踏み台にされがちだが、ゼンデイヤはゲームマスターであり、全ての起源であり、テニスのことしか考えていないのでまじで最高。三人が三人とも最上位に置く価値がぜんぜん違うのもいい。べっとりとした執着はなく、それぞれに相手を何かの手段として利用しているところもある。だからこそ恋愛にありがちな湿っぽい情念は前景化せずカラッと爽やかだ。関係に張り巡らされる狡知の結果につねにズレが生じ、思いがけないショットの連続がそこに連動することで、映画的な驚きに満ちている。これが気持ちいい。現在と過去の往還、relationship ──人間関係、恋愛──のパワーゲームの移ろいが、テニスボールとテクノのリズムで反転し、逆転する。いくつもの関係の成立と破綻のあいだのゆらぎが増幅する。二者間でのシーソーゲームに、もう一者が加わることでここまで快楽に満ちたゲームができあがる。恋愛をテニスのように楽しみ、テニスを恋愛のように感じ、映画はそれらが渾然一体となった官能としてある。はー面白かった。すごいすごい。はしゃぎながら帰宅して、奥さんに興奮しながら喋り散らかした。一緒に観に行けたらいいなあ。