2024.07.14

朝ごはんは食パンに黒胡麻塗ったやつ。もったりもったり食べていたら奥さんに呆れられる。さっさと先に済ませてテーブルを片付け始めたのだが、ぐずぐず咀嚼を続けながらもてきめんに冴えていった。先ほどまでの鈍臭さが嘘のようにてきぱきと家の片付けを開始して、とにかく頭が動かないときは机の上をさっぱりさせることだと学ぶ。午前いっぱい収納周りの暫定対応を進め、ようやく全体として広々とひらけてきた。お昼は納豆うどん。

午後は設計士のSさんがいらして、残作業を進めてくれる。文芸誌を読み進めたり、亀を洗ったり、細々と手を動かしているうち、あっという間に夕方で、あれ、と思う。引越し前後のために長めに確保した休みもそろそろ終わってしまう、と思うと途端に元気がなくなってくるというか、いやだ〜と丸まりたくなる。

夕食の買い出しのためスーパーに出かける。まだ見知らぬそのスーパーはいちいち目移りして、ひとつひとつを吟味してしまうから大変だ。通路幅も新鮮だから、カートの押し方も勝手が違う。歩き方を覚えることから始めなくてはいけない。いつか、そう遠くないうちにすいすいこなすようになるのだろう。卵の場所も見当がつかないいまの感じは習慣を予期しながらいちいちに驚くようなところがあって、脳のどこかが活性化している。夕食は鮎の塩焼き、ナスの山椒揚げ、レタスの湯引きじゃがいもとベーコンの味噌汁。本格的なキッチンの使い初めで、蒸す以外のことはだいたいやってみた形。四日目でようやく自炊を再開できた。ちょうどよさにほっとする。自分たちでつくる味が日々をつくっているのだとわかる。ここで暮らしていくんだなと実感が湧いてくる。ゴミの捨て方はまだまだ全然ピンときていないが。お風呂でついうとうとしてしまう。疲れが溜まっている。あすは街に買い物に行けたら、と話していたが、しっかり休養するべきだろうか。

設置してもらったスクリーンで映像を試運転。ロッタちゃんの映画の初めのエピソードを見てみこにこする。わがままでかわいい、という感覚を、ロッタちゃんとそうかわらないくらいの頃に見たこの映画で知ったのだと思う。いま見てもかわいいし、周りの大人たちもかわいくみえる。バムセが記憶していたよりもずっと汚くて笑えた。日記を書いている間、奥さんがグーダドラムという円盤をぷわんふあんと弾いて鳴らす。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。