2024.07.26

きのうは早朝にトイレに起きて戻ってきたら奥さんが嬉しそうに、もしかしてゴミ出してきてくれたの?と尋ねてきたからゴミの日だと気がついた。きょうは最初からわかっていたから昨晩のうちにまとめておいた。目覚ましが鳴っても眠たくてぐずぐずしていたら奥さんが先に起き出したので、うう、と呻きながら頑張って、出し終えてから二度寝。目覚めて即労働。やたら忙しくて、合間に本も読めやしない。日中はほとんど真面目に労働で、終えてからかろうじて『ジャパン・ホラーの現在地』をすこしだけ。夕食は車麩のゴーヤちゃんぷるーを奥さんが作ってくれる。副菜のレタスのオイスターソース煮もおいしい。夏の暑さと陽射し、さらには住環境の大きな変化によってフィジカルに限界が来ている。半月経ってすこしずつ緊張や新鮮味が薄らいできたからこそ、どっときている。奥さんはもうずーっとDDTの試合を見ている。先週の両国大会を見るためにアカウントを作ったWrestle Universe の一週間無料お試し期間中に見れるだけ見るらしい。次から次へとおすすめの試合を教えてくれるが、僕は労働にも追われているし、本も読みたいし、プロレスは固唾を飲んで注目しないといけないからほかごとができなくなるくらい疲れるし、なかなか追いつけない。家のタスクも多く、つねに頭のメモリがぱつんぱつんだ。ここにぱっつぱつの筋肉のパフォーマンスをぶちこまれてしまうとあっさりカウントはスリーまでいく。だから勘弁してほしいという気持ちと、エーステの話をするときと同じくらい目を輝かせている奥さんと一緒に語らいたい気持ちとがせめぎあう。せめぎあうまでもなく、体力が限界でもある。足腰を揉んでくれるというので揉んでもらっている間におすすめの試合を見るということにして、佐々木大輔 vs. 葛西純 vs. MAO のハードコアマッチをお供にツボを痛めつけられた。臨場感がある。途中から奥さんも見入ってしまうからあまり揉んではくれなかった。その後、ネタバレ禁止興行の宴会芸みたいなのを一緒に見て、しょうもなくてよかった。たしかに楽しいけれど、僕はいかにも喧嘩の強さしか取り柄がなさそうな男たちが、自らの肉体を娯楽のためだけに無駄に酷使するところが見たくてプロレスを見るのであって、元気も愛嬌もある男たちがおちゃらけながらわかりやすくこちらの愉快さに奉仕してくれるというのは、営業向きとされる男らに感じる苦々しさを覚えなくもない。このくらいの丈夫さと頭の回転をもった男だったら、会社にだって沢山いるとでもいうような。ほぼ毎週のように飲み会に付き合わされていた日々のことをなんとなく思い出してしまうところがある。知力や体力をつねに馬鹿馬鹿しさのために蕩尽しているさまはたしかに感動的ではあるのだが、であればいっそ2.5次元舞台くらい己の男性性を無臭化したうえで非実在の現出のために滅私するほうが僕には見やすかった。強さや洗練を達成できない半端な肉体や技術の持ち主が、野暮ったい剽軽さだけを武器に巧くて強いやつらよりも支持されうるという、興行だからこそのいかがわしいパワーゲームの不安定さが露骨に出るのは面白い。それもまた現在進行形で変容を繰り返す「男らしさ」の変種ではあり、むしろDDTのほうにホモソーシャルの圧を感じ取る。厄介なのは、そこにうっすらと居心地の悪さを感じ取りつつも、なんだかんだで惹かれてしまうし参与したくなるということなのだ。僕だってできればへらへら踊る側でいたいよ、とでもいうような。恐竜のように古めかしい新日本のキャラクターの方が安心して見世物として楽しめてしまうというのは考えてみれば奇妙な倒錯であるが、冗談が通じなさそうな真顔の方がバカらしくて笑えるというのはなんだってそうな気もする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。