2024.08.10

しまった、くぐるつもりの改札とは違うところで乗り換えてしまった。そう思っていたのに最後に到着したのはいつだか偶然発見した最高効率のルートで、そうか、こっちで合ってたんだ。リュックに『虚史のリズム』を入れてきたのだがさすがに重たい。そもそも電車で読むと手首をいためる。などといいつつだんだんとコツをつかんできて立ったまま読めるようになってきた。昨晩、これを片手でバタンと閉じたら、すごい音、と奥さんが愉快気に笑ったのだが、片手でこのA5判、千頁超えの本を携えているとフィクションの賢者が持ってる魔導書みたいだ。

お酒飲んでにこにこお喋りしたい気持ちがある。やはり暑いとビールなのだろうか。近年急にビールが好きだ。でもジョッキのものは苦手で、瓶が好き。ある人が、父の教えとして一杯目のビールはコップに残る泡の線をなるべく少なくするように飲むのだというのを書いていて、つまりぐいっと一気に飲むのがいいのだというのだが、これを聞いてからてきめんにビールがおいしくなった。初めのひと口だけがおいしいとはよく言われることだが、そのひと口をたっぷり飲むことで、その嬉しさがあとあとまで持続する。それはそれとして日本酒も飲みたい。「働き者ラジオ」でおすすめされていたポッドキャスト「熱燗DJつけたろう&ドラゴン豪希のデリシャスタイム」を聴いていたら土田酒造の酒を飲んでみたくなった。正確には日本酒じゃないのか。ホップが入ったクラフトサケらしい。クラフトサケというのは、日本酒は新規参入の障壁がばか高いことから見出された抜け道のことで、法制上は日本酒じゃない日本酒のようなもの、らしい。規格の都合上、発泡酒といわれるクラフトビールとなるほど事情は似ている。これは「ラジオただいま発酵中」で知った。買っちゃおうかな。あと伊良コーラも飲みたい。こちらは「流通空論」の影響。単純。ちかくのローソンにあるかな。

あった。たしかに香りがすごい。スパイスのレイヤーが感じられて、たのしい。味が一面的でないのがいい。清涼飲料水にありがちなべたつく感じや、あとひく厭な甘みがなくて、すっきりおいしい。

きのうの夕食は手羽トロを塩麹漬けにしていたのを忘れて味付けしていたのではないかと指摘され、その通りだと思った。思い描いている味があって、ついうっかりした。目的地見てたら出発点を見落とす。本日は奥さんの担当で、作り置きの副菜も総出で賑やかな食卓。スペアリブとマンゴーの煮物、パセリのおひたし、とろとろ焼き茄子、蕪の酢漬け、冷奴。そのほか長らく冷蔵庫で待機していた酢鶏、エスカベッシュなども登場。お腹いっぱい。奥さんが掘り炬燵の側面にカーペットタイルを貼ってくれて、きれいに仕上がっていたので感激。部屋の片付けをおこなって、ワインを飲みながら録音。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。