2024.08.26

終電から始発までの生放送を終えて帰路。なんか口のなか血の味が滲む。

文化系トークラジオLife、「五十歳。何がめでたい!?~人生100年時代の後半戦をどう生きるか」特集。今回のテーマは当事者というには距離があり、かといって世代で雑に括って一般論を語るほどのデータも乏しく、いうなれば関心のエアポケットにあるような年代を扱うものだった。依頼をいただいてから、出演料を前借りするような気持ちで、あるいは香典かわりというような気分で『情報の歴史21』を購入し、この六十年くらいの文化史を中心にあれこれ眺めておきはした。それでも、自分に何が話せるのだろう、とよくわからないまま赤坂に向かう終電に乗り込んだのが昨晩。車内で事前にGoogleドキュメントで共有されたお便りを読み込むうち、そこで言及されていた十二年前のLife でアンチエイジングを特集した回を聴きながら、ようやく方針が見えてきた気がした。終盤、ものわかりのいい後輩にはならないように、不都合なことを突きつける不躾さを避けないように、と思いながら提起した話題は、あきらかにそれまでのスタジオの空気を重たいものへと変化させた。これは思っていた以上にきついな、と思いながらも、きちんと受けて応えてくださる出演者の面々への信頼もあった。半ズボンで来たことを後悔した。どんどん体が冷えて、微かに震えさえする。このままではネガティブな気分に支配されてしまうかも、と心配しながら、生放送はぶじ終了。つかれた。踏み込むのは怖い。よしかずさんというリスナーの方が、「柿内さんが同世代なんだけど、今日そこ聞きたかったのよー!!!っていう投げかけをしてくださっていて、信頼感が凄い」とツイートしてくださっていて心強かった。収録後に津野さんが声をかけてくださったのも嬉しかった。なんだかんだで、期待されていた役割に応えられたのかな、という興奮で帰りの電車では眠れなかった。それで、口の中は鉄臭かった。

オールナイトの三本立てからの朝まで生放送。ふた晩つづけて明かすこと、十代や二十代のころでさえしなかった気がする。最寄りから家までの日差しはもう鋭い。帰宅してシャワーを浴びて、ベッドに向かうと奥さんが手を振ってくれる。ただいま、と言ってその手を握ろうとするとふいっと避けてもう片方の手でぼりぼり掻き出す。なんだよ、と思って観察すると、どうやら眠っているらしい。眠っている人とは思えないほど両腕をばんざいのような形であげたり、あげた腕を振ったり、雄弁な寝相で、しばらくあっけにとられた。うーん、うん、と声も出ている。なにか頷きながら下手くそな指揮者のように手振りを続けている。へんなの、と思いながらすとんと寝る。

午後からは通常通りに動いて、おやつに奥さんが買ってきてくれたドーナツを食べる。朝と昼はすっぽかしてしまった。夕食はシェフのおすすめ気まぐれサラダ〜緑の森に砂肝を添えて〜、茄子と玉ねぎのポタージュ、鮭のポワレ。お店みたい!と感激する。DDTの興行をWRESTLE UNIVERSE で見て、『追想曲』の赤澤燈バージョンを観た。日記を書くといつもの寝る時間で、このまま生活リズムが元に戻るといいのだけれど。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。