「日本一安く売る店」という世界堂の看板を見上げて、なんで安く売る?もっと高く売れ! と観光客の女性が憤っている。高田馬場のバーで飲んでいるんですが、そこの店員さんが柿内さんのファンらしいですよ。そう飲み友達から連絡をもらって、それが十九時。二十一時二十分からシネマカリテでの『Chime』までどうしようかなと考えていたところなので、二駅引き返してふらっと寄ることにした。件の店員さんは文学フリマでも声をかけてくださった方で、顔に見覚えがあった。あなただったんですね。カウンターが空くのを待ちながら立ち話していると、柿内さん? 横から声がかかる。一年前ブックバーひつじがでご一緒してその翌日にお昼をご馳走してくれた方で、思わぬ再会だった。上京しているとは聞いていたけれど、このお店がこちらでの行きつけのバーらしい。これは嬉しい。楽しく飲んで、ちゃらちゃらお喋りして、一時間ほどでさくっと退散。山手線で映画館へ。深追いせずにちゃっと飲んでちゃっと帰るというのはスマートな大人みたいで格好いいなと思う。『Chime』を観て、期待し過ぎてしまった部分もあるが、画面は抜群で、あんなに怖い椅子は見たことがない。遠景で捉えて横移動するカメラはもちろん大好きで、そのふたつのシーンだけで傑作ではある。ただ、終盤の音響と顔のアップはつまらなく感じた。そこまで周到に立ち上げてきた不穏さを、凡庸なものに落としかけていたような、そのようなぎりぎりの持ち堪えにこそ技を見るべきか、迷う。
帰宅して、今夜は奥さんは実家に泊まっているので、家の片付けをして、もうひと清ほしいと『復讐 運命の訪問者』を観たらこれがべらぼうに面白くて興奮した。こんなに面白いものを観てしまったら、なかなか寝付けないかもと危惧していたが、エンドロールで流れる哀川翔のフォーク歌唱ですんっと冷めてすやすや寝れたのでよかった。ちゃんと家に帰してくれる映画というのは親切ですね。『Chime』のラストの退屈さもそういうことだったということにしておこう。いや、でもやっぱりチャイムが鳴ってさっさと切り上げた方がよかったんじゃないか。