2021.04.07(2-p.53)

もう四月も七日だという。やはり気張っているのだろう。仕事を終えるとどっと疲れがきて、あっという間に眠ってしまった。『共食いの島』を読んでいると、身近にある官僚制や多忙や無理なノルマによって、あっという間に人は他者への想像力を損ねるところまで追い詰められるよな、ということを思い出す。ひどいことばかりだが、それはまったく他人事というわけでもなく、自分もこの最悪に加担しうるというのがなによりの恐怖だった。ここで雑に逮捕され虐げられる者たちでなく、ノルマに追われ事務仕事の杜撰さに消耗しとっくに思考放棄がなされそれでもひたすら手を動かし続ける実務層に自分を重ねてしまうようになっているとき、会社員である効能を思う。被害者の側に立つのは易しい。加害者でありうるということに盲目でいられるほうが楽だったと思うが、そうやって目を瞑ることは僕はしたくない。会社や社会のせいにもできるだろうが、実際に手を動かすのはいつも現場の具体的な個人なのだというのも事実だ。

翌朝にこうしてなにかを書こうとしてもすでにほとんど何も覚えていないことがわかる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。