2021.08.22(2-p.150)

二人は出先で寝具が離れてると寝れない、というジンクスがあると書いた。しかしセミダブルではさすがに狭すぎた。夜中に何度も起きてその度に僕が掛け布団を奥さんから剥ぎ取って独り占めしているのに気がついた。かけてあげようとすると奥さんは心底不愉快そうにうにゃうにゃと言った。今更いらねえよ、と言っているようだった。けさ訊いたら実際そう言っていた。人ってめっちゃ寝返り打つんだね、と奥さんは恨めしそうに僕の寝返りの多さと、肘の内側をバリバリ音を立てて掻き続けていたことを報告する。今日は日差しが強い。立川に移動して、南口の珈琲館でモーニング。てきぱきと立ち働くホールの姿に元気が出てくる。コーヒーとホットケーキでだんだん目を覚ます。珈琲館は初めてだったけれど、程よくのんびりできて良い。

なぜだかTwitterの通知がいくつかあってフォロワーが増えたっぽい。まだ書見台が動いてるのかと思ったら保坂さんのツイートがきっかけのようだった。また嬉しいことを書いていただいてる。

750ページ超、厚さ5cm。私はしおり紐を4本つけて、テキトーに開いたページからしばらく読んで、その流れに飽きたら、別のページを開いてそこからまたしばらく読む、という通読しない読み方で対談後も読んでる。
柿内さんはまだ30歳前で、私は自分の若い日々を思い出したり、柿内さんの自分の弱さ・頼りなさ・拠り所のなさetc.から逃げない(虚勢を張らない、わかった顔をしない)姿勢に感心したりしている。
強くなろうとしないで、自分の弱さをいつも出発点にするのは、私は今もそうなわけで、マッチョであることに憧れないタイプの生き方はこれはこれで難しい。だから何歳になっても若い人に教えるより教えられる。(…)

hosakakazushi.official @HosakakazushiO

北口に移動しながら、水分補給に麦茶を入れた水筒を取り出して飲む。今日は春組のTroupe LIVE。マチネ。客入れ曲はかかっておらず、会話は禁止。後で奥さんが調べたところによると初日は音楽がかかっていたらしいがそれだとみんな喋っちゃうということで無音になったらしい。空間の雰囲気というのはそういうことひとつで全く変わる。客入れから舞台は始まっているのだ。音楽がかかっていない会場は緊張を生む。飲食も禁止なのだが香ばしい匂いが微かにしている。隣の人だろうか。気がつくとTシャツの裾とズボンの太もものあたりがびっちゃりしている。さっきの麦茶、水筒の蓋が閉まってなくてバッグの中は大惨事。放り込んでおいたiPadと本を慌てて取り出す。本はダメにしてしまった。本気で落ち込む。目で奥さんに訴えて二人で応急措置。するとすぐに開演だった。一曲目、みんなが黙々とペンライトを振る。三回席から見る会場の全体がペンライトのゆらゆらで埋め尽くされているのを見て、『ゾンビランドサガ』が重なる、もはや条件反射のように涙と鼻水が噴き出る。マスクの中に水が溜まる。洋服からは麦茶の匂いが立ち上る。これがMANKAI STAGE『A3!』Troupe LIVE だ。シトロンの場の空気の掌握力はほんとうにすごい。声を出させないまま、自分もなぜか声を出さずに会場をコントロールする技術の高さ。ライブだと芝居よりも一層、板の上の彼らがキャラクターという層を纏っていることが際立つ。彼らは彼らとしてでなく、キャラクターとしてそこに立って、歌って、踊っている。だからこそこちらも、生身の人間のエゴや、そうしたものに理想を押し付ける自分たちのエゴの醜悪さをいったん保留にできる。板の上の虚構を演者と観客とで作り上げていく。演者の生き様だとか覚悟だとか、そういうパフォーマンスの背景を殊更にありがたがるような鑑賞の仕方、あるエピソードの事実であることをありがたがるような風潮が僕はあまり好きではないようだ。別に全部嘘でいい。それでもこんなにいい舞台が作れるのだから。

駅中のカニチャーハンが美味しかった。寄り道するつもりだったが電車で座ったらもう立ち上がれる気がしなくてそのまま帰った。洗濯をして少し寝て、ご飯を食べて髪を思い切り刈ってもらった。頭がスースーしていい気持ち。髪型を思い切り変えるのは、引っ越しや模様替えの代替行為。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。