2021.09.18(2-p.150)

ぐっすりと寝て満足して起きると八時前だった。トイレに立って二度寝がしたいが、寝室に敷かれた僕のぶんのマットレスは押し入れの側で、廊下に出るには奥さんを跨ぎ越す必要があった。そうすると奥さんは目覚める。もともと眠りが浅く寝付くのに苦労する人だから眠れているうちは起こさないでおきたい。そうなると奥さんの睡眠の充実と僕の膀胱の緊張とのバランスの問題で、そこまでの緊張ではなかったから布団の中でじっとして、フヅクエのメルマガを読んだりして過ごしていた。それでも奥さんはすやすや眠っているのでTwitterを開くとDELTARUNEのアカウントから3分おきにツイートが投稿されていて、そうかチャプター2のリリース日、これはカウントダウンだ! と興奮し、九時のリリースを見守った。

ほら、よく飼いネコが、捕獲したムシとかを玄関先に置いてったりするでしょ?
あんな感じで、僕も自分がこれまで取り組んできたヘンなモノを、みんなにドヤ顔で見せたいなと思って。

https://deltarune.jp/update-092021/

早く布団から出てパソコンを開かなきゃ。奥さん、早く起きて!

奥さんが起きたのでさっそく話しかけると眠そうだった。それはそうだ、こちらはもう二時間もじりじりしているが、奥さんはこちらの世界に戻ってきたばかり。もっとゆっくり始めたいだろう。でもそれは僕には関係なかった。顔を洗ってリビングに出て、赤福を食べてさっそく『DELTARUNE Chapter2』。一時間くらい遊んで満足する。やっぱり好きだなあ。台風で動けないし、今日は家で楽しく過ごしたい。

『セックス・エデュケーション』のシーズン3が始まっているのを思い出してうきうき観始める。二分くらいで前シーズンまでを振り返る動画ですでに涙ぐむ。ほんとにほんとに、これまでも素晴らしいシーンが何度もあった。毎回思うけれどオーティスのあの上着欲しい。一話だけ観て、大事にとっておく。みんな真摯で真剣で可愛い。人と関わることの汚さや面倒を美化しないままに屈託なく肯定してくれる。いま一番好きなドラマだ。

それからどうでもいいものが観たくて、昨晩ふたりで話題にしていた『トータル・リコール』を再生する。シュワちゃんは僕らは玄田哲章なので吹き替えで観る。僕は割と厳密な字幕派なのだがシュワちゃんは別だ。僕は初見で、奥さんは奥さんがお腹の中にいるときに奥さんの母親が映画館に観に行った。胎教映画なのだ。奥さんは昨晩、顔を真っ赤にしたシュワちゃんの目玉が飛び出すのと、複乳と、お腹が喋る、この三つしか覚えてない、と話していたが、その三つくらいしか記憶に残りようのない映画だった。念の為補足しておくと奥さんが映画の内容を覚えているのは生まれ出た後でビデオか何かで見ているからであって、決して胎児の記憶としてシュワちゃんを覚えているわけではない。しかしほんとうに覚えていないと言えるだろうか。胎教にいいかどうかはわからないが、妊娠中にクワトーを観るのはだいぶ嫌そう、と奥さんは改めて感心していた。いちばんどうでもいい『トータル・リコール』に多く文字数を費やして大好きな『DELTARUNE』や『セックス・エデュケーション』はさらっとしか書かないの、自分で納得がいかないが、ゲームやドラマはまだ途中だし、映画の出来はともかくいつでもシュワちゃんはシュワちゃんなのだから仕方がないとも言える。シュワちゃんは実は作品に恵まれてないが、どんなしょうもない映画でもシュワちゃんの笑顔の爽やかさと腕の太さで一定の満足を保障されてしまうからシュワちゃんはすごいのだ。

十六時ごろから気を失ったようになる。奥さんは眼精疲労と偏頭痛のダブルパンチで、温めることも冷やすこともできない。ずっと苦しそうで、ようやく動き出せたのは二十二時を過ぎてから。台風の日はこうなるとわかっているのに動画ばっかり見ちゃうから気圧性の頭痛に目の疲れを足すことになってしまう、と嘆いていた。FGO の夏イベの僕の素材回収の進捗を見て、奥さんは、もっと有意義な時間の使いよういくらでもあったでしょ、と言ったが、すぐに、それでも持て余した行動力を消化するのにちょうどよくもあるんだよね、エネルギーの行き場を失ってろくでもない多動を発揮するよりずっといいよね、と考え直していた。僕もそう思う。もっと有意義な時間の使いようがいくらでもあった。しかしそもそも時間は使うものではない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。