2022.02.23

朝、奥さんは金縛りになりそうと言って動かなくなった。しばらくして、本当に金縛りだったようで、全身ビリビリする、ああ怖かった、と話してくれる。金縛りの間は息もできないらしく、声も出せずにパニックだったとのこと。子供は静かに溺れていく、というのを思い出させる出来事だった。

家では同居人主催でアフタヌーンティーパーティーがあり、貴族の気持ちになった。

午後をのんびり過ごそうと思いながらも、なんか派手な服とか見たいな、と庭園美術館のチケットを取る。僕はクレジットカードの暗証番号が思い出せず、結局奥さんがやってくれる。16時からのチケットなので、キンプリでも観るかとだらだらしているとSPBS の方から追加のメールが届く。導線的にちょうどいいので、本を抱えて家を出ることに。奥さんはお手製の花柄帽子をかぶって格好よく決めている。僕は柿内正午のコスプレみたいな格好をした。箕輪さんにアイコンを描いてもらう際に送った画像と同じ格好ということで、すでにアイコンの方が主で現実の僕が従な感じがある。

渋谷で降りて、SPBS へ。ご挨拶と納品をして、店内を遊ぶ。聴きゃいいだろ、というか、このじゃれ合いの楽しさは声がないと無理でしょ、と思ってたのに、造本が格好よすぎて『奇奇怪怪明解事典』を買ってしまう。ぱらぱらと読むと、これはこれで面白いのだけれど、なんかまっとうなこと言ってる感がどうしてもでてしまうので、文字の怖さを思う。帰宅してからポッドキャストを聴き返すとふつうにまっとうなこと言っていて、あれ? これまで何聴いてたんだ? と思う。じゃれ合って楽しいなあ、以外の部分をどれだけいい加減に聴き流していたかというか、僕はまっとうに内容を受け取るのは文字化されて初めてできることだったようだ。

目黒に移動して、東京都庭園美術館。はじめて来た。「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」。会場がそもそも色がつきすぎていて、建物自体の発する情報と、モノの発する情報のちぐはぐさがあった。そもそも展示自体のディレクションが謎だったというか、学部一年生のレポートのように感じられた。知っていることを思いついた順番に並べただけというか、鑑賞者に提示したい関係性や文脈がさっぱり感じられなかった。空間とモノの不協和音も手伝って、なに見せられてんの? という戸惑いと物足りなさだけが残った。憂さ晴らしに恵比寿まで歩きながら、ひとしきり悪口を言い合って、しかしこうして悪口が出るのも、「議論を誘発した」とかポジティブに解釈されるんだとしたらものすごく癪に触るよね、と思って、二人ともなるべく黙った。それでもずいぶん腐して、楽しかった。

不服な思いを燻らせて帰宅途中、駅前の大きなスーパーマーケットに寄る。今川焼きが食べたくて、冷凍食品であったりしないかな、と期待してのことだった。スーパーマーケットは素晴らしかった。キュレーションの意図がはっきり打ち出されているし、空間とモノの配置との関係にも、導線の設計にも、しっかりと根拠がある。なんて気持ちのいい場所なんだろう! いい展示で、行為を誘発され、今川焼きだけでなく、柿ピーや、カップ麺や、堅揚げポテトのミニパックや、アップルブランデーだかのチョコや、塗るチーズや、色んなものを買ってしまう。スーパーって楽しいなあ。

夕食後は南森町さんのスペースで『レインボーライブ』の話をしましょうということで、でもほとんど『A3!』の話をしていた気がする。自分の趣味の開示が苦手だった奥さんが、こうして楽しそうに人と好きなコンテンツの話をしているのを聴いていると、なんだかいいなあ、という気持ちになる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。