2023.06.04

早起きして「非哲学者による非哲学者のための哲学入門読書会」。講師のお二人に名前を知られていて、『会社員の哲学』も認知されていると分かり恐縮する。こんな半端な門外漢がいけしゃあしゃあと哲学を騙っております。会はとてもいい勉強の場で、とにかく背のびをしないで当たり前のことを当たり前に読んで書くということだけが求められるのだが、それらしく取り繕ったり、大仰なことを言いたくなって書いていないことまで読んだと思い込んでしまうことがなんと多いことか。そうした賢しらさや過剰さに油断するとすぐに流れていってしまうと自覚しながら、書いてあることを書いてある通りに読むように努める。これはなかなかに難しい。懇親会で行った中華が美味しかった。

銀座で奥さんと合流。ロイヤルホストでおやつの時間のつもりが奥さんの空腹が限界だったのでわりとしっかりめに食べて、もう夕飯はいらなさそう。バイトのお兄さんはハキハキとマニュアル通りに動作していて、一挙手一投足が全身全霊で定められた動きを遵守していてすごい。食後、東急ハンズに寄りたくてマロニエゲートに向かうと、奥さんが、視界から消えたい、と言うのでびっくりした。「五階から九階」だった。ハンズが何階に入っているかを教えてくれていたのだ。お腹がくちくなって絶望を行動に移す元気が出たわけではなかった。コーヒー用のマグカップを買いたかった。久しぶりのハンズにはしゃいであれこれとキッチン用品や文房具を買い込んでしまう。

歩いていると暑い。奥さんはすてきな白い上着を脱いで腕にかけていた。そこに虫が止まった。振ってもなかなか落ちないし飛ばない。虫って平衡感覚がないらしいね、と奥さんは言って、手を翳して影をつくった。こうすると鳥か何かだと勘違いして逃げていく、ほんとうにそうなった、脅しちゃった、と奥さんは笑って、僕は物知りだなあと感心して虫に詳しくなった。

帰宅してから録音。ふたりの鉄板ネタであるカットレタス事件についてはじめて公の場で話した。やはりこの話は盛り上がる。しかしよその人が聞いてどこまで楽しいのかはわからない。ロイヤルホストでもずっとしゃべっていたし、奥さんと久しぶりにたくさんおしゃべりした気がする。たくさん話して楽しい日は、もう満足しているから日記が短い。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。