2025.03.13

朝、溜まりに溜まったゴミ出し。猫砂が頻度と重さを増やしてきているけれど、この家に引っ越してからあらゆるゴミを数えるほどしか出していない。あしたも集荷日だから別のを放出する。胃腸の調子がまだ悪い奥さんは朝食を抜く。きのうから気圧の乱高下もあり、ふたりともぐったり。猫は元気。これまで天候由来の不調は二人で同期していたけれど、関係なしに元気な生き物がいるといい。世はぐったりだけではないと知れる。

だらだらしつつ午前中に家を出て、郵便受けに確定申告関連の返送が必要なのが届いており、悩みつつ歩き続け、本の注文が来て、だったら、と引き返す。ルドンが、なんやなんや、とまとわりついてくるのをあしらいつつ、納品をつくって、書類に書き込み、また家を出る、郵便局で差し出し。けっこうぎりぎりだったけれど、まあいいよ、と受け付けてもらえる。

電車に二時間揺られ、『労働者』読む。中華街を経由して山下公園まで歩き、シーバスに乗る。遊覧船はみな、見送りの係のおじさんに嬉しそうに手を振るから好きだ。船は人をかわいくする。みんなにこにこしていて、ゆらゆら揺られて、産湯に浸かる気分だろうか。船は奥さんとよく乗るけれど、一人で乗るのは久しぶりだった。奥さんがひとりで遊ぶ時よく船に乗っていて、いいな、と思っていたから真似をした。小さな船で、船内の席から立てず、外で風を浴びれないのがすこし残念だった。なるべく遠くの水を見ていた。

みなとみらいで夏目大さんと再会し、電車とバスを乗り継いでお宅にお邪魔する。縦長のリビングの壁面はぜんぶ本棚で、棚の前にはレコードやオーディオ機器が構えられている。男の子の夢の部屋だ。本の並びに規則性はないとご自分でも書かれていたけれど、分類ではなく堆積の過程が感じられるような、自然に繁茂していったことが垣間見えるいい棚だった。奥のシアタールームには僕と同い年のMacintosh Classic II がおり、おお、と声を上げる。ディスプレイが二つ並んだ仕事机を見て内心はしゃぐ。人の作業環境を見るのは好きだ。エディタなにを使ってるのかな、とか、机や椅子の高さや硬さ、照明の具合まで、人がどのように集中を手繰り寄せるのかを想像するのは楽しい。夏目さんがコーヒーを淹れてくれるあいだ、本棚を眺める。コーヒーを飲みつつ、録音と録画。電車でもバスでも喋り続けていたけれど、一時間半ほど話す。たぶん大半は益体のないことだけれど、駄弁りに来たのだからいい。翻訳書の見本誌をいくつか譲っていただく。『因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか』、『ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつ』、『ソクラテスからSNS「言論の自由」全史』。最後の一冊は手術後のベッドで耳から血を流し点滴を打たれながら、スターリンの血まみれの粛清を訳していたというのだから壮絶だ。仕事場で録音させてもらっているのもあって、書くという行為にまつわるフィジカルな環境や状況は色々であること、完成品からはそれらはほとんど透明になることについて考えていた。中華街でごはん。YouTubeの面白いチャンネルを色々教えてもらう。

帰りも二時間。電車内ではいただいた本の味見をしようと思っていたけれど、眠くなってしまいあまり読めず。帰宅してくしゃみが止まらない。奥さんがアイス食べたいというのでコンビニまで再度出かける。面倒で半袖のまま出てしまうが、問題ない。ずいぶん暖かい。シャワーを浴びて寝る。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。