2026.08.02

川口にはライオンがいる。明らかに上品ではなさそうな雑居ビルの屋上にがおっと吼える巨大なライオン像。いまは学習塾やリサイクルショップが入居しているようだった。なんじゃあれは、と面白がる。昼過ぎで、先にバインミーで腹ごしらえしてから豆千に向かう。mg.との共同企画でブックバーひつじがが関東にやってきたのだ!

開店早々から大繁盛の様子で、まだ開店の告知もなかったので、いちおうこのくらいに着きそうですとシモダさんに連絡を入れておく。到着すると満席で、軒先のチェアリングスペースまでみんなごきげんにやっている。親切に席を開けていただき、奥さんとふたりで小皿のチーズクッキーを肴に焼酎をやっていく。メニューの案内書きに従いまずは何も考えずちんぐ夏上々の炭酸割りから始めて、ほの甘くさっぱりしてどんどんいけちゃう。奥さんは笑う一日からだったかな、ジンジャーの爽やかさできゅっとしまる。夏限定松露の芋はこっくりうまく、流流はガツンとアルコールに柑橘の雰囲気、波紋も芋でこいつはうまかったなあ、さっぱりしていながらしっかりしている感じ。〆は青鹿毛でなんだろう、白酒のような干し草のフレーバーが面白かった。これで全種制覇でふたりで楽しみ尽くしたぞ、と思っていたのだけれどここからもう二、三杯、おかわりしたり頂いちゃったりで満喫する。お客さんも福岡と埼玉が混じり合い、ひつじがの元常連たちが懐かしみ、豆千の店主と常連がにこやかで、みんなとてもいい人たちだった。混み合ってきて僕も軒先に出て福岡のおいしいお店を教えてもらったり、うどん事情に詳しくなったり、また福岡に行きたいと思うのだが、なんともう文フリの申し込みはとっくに締め切られているとのことで愕然とした。

シモダさんのお子さんがやってきて全身恐竜コーデで楽しませてくれる。常連のお兄さんに遊んでもらって、爆笑と号泣の両極を行き来するさまに驚嘆したりした。すごかったな、もういっかい!もういっかい!の直後に、プツッと切れて、もうかえりたい〜!が始まる。そしてまた笑い出し、もういっかい! シモダさんが僕の本をたくさん持ってきてくれていたので、一生懸命営業して『人間関係の構造と手立て』は出ていた分は売り切れた。嬉しいことだ。ただの客の領分は逸脱しているだろうけれど、シモダさんの気前のいい入荷と販売には報いたいと思う。ひつじがは、客と店との境界がきっぱり引かれている安心感と、だからこそいい客でいたいという相互のリスペクトがあり、それゆえ客というにはちょっと過ぎた貢献へのトライをいつもしてしまう。あくまで客と店。でも本を卸しているからには、本に関する部分では協働できる、という塩梅がどこよりも小慣れているのがひつじがで、それはやはりシモダさんのなせる技なのだと思う。しかし、今回はmg. との共同企画であるわけで、帰り道うっすらとはしゃぎすぎた反省の気分もあった。楽しすぎて、閉店時間を回ってもしばらく居残り続けてしまったから。客としての満足をしつこく追求し続けてしまう悪い酔客でもあった。嬉しい出会いが盛りだくさんだったな。ひつじがは親切な人たちとのスペシャルな一期一会が平然と起こり続けるからすごい。恬淡とした気前よさ。僕もああなりたい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。