2026.08.25

『B2B ジャズ⇄ラップ往復書簡』を読み始める。中村による大谷能生『音と言葉のデジタリティ』「モダニズム、キッチュ、危機の時代の批評」要約の手際が見事で、その後半で示される読みの力点も、らしくていい。

現実には決して手にすることはできないのに、その文化や規範に親和的な欲望を抱く。それはたしかに秩序への反抗する気風を削ぐ統治の手法でもあるだろう。けれども、しょぼい賃労働者がそれでも貴族的な気高さを誇るような可笑しさが、場違いなノブレス・オブリージュが支えていたものは、単なる支配構造だけではなかっただろう。荒廃した世に流されて荒れることを拒絶する、マイナーで、滑稽な身振り。それは中村のいうフェイクに抗するリアルでありえないだろうか。大谷が整理したように、グリーンバーグにとってキッチュとは反社会的なものであろうとするアヴァンギャルドが商品化可能なものとして骨抜きにされたものであったが、これはアヴァンギャルドがブルジョワ文化を脱却しうるものであることを意味しなかった。

ブルジョワ文化のブルジョワ性を安易に大衆化することなく保持することで、オーセンティシティを重視するスタンスをとれるのではないか。それは、階級的な意味での真正さをもたないまま、文化的な本質を掴もうとするキッチュなものではあるだろうが、そうした高級に手を伸ばす低俗によってひらかれる地平があるのではないか、とここまで書いたところで我が家にゴキブリが出て、大きくて、怖くて、なんであれってあんなに怖いの? 引っ越してから初めて、なのでこの二年は平穏無事だったわけだけれども出て、もうだめでめちゃ怖い、もう退治し終えたけど、怖さに追いつかれる前に処理したけど、奥さんと二人で冷静に対処できてえらかったけれど、もうだめ震えが止まらないもうだめなんも手につかない。なので今日はもうおしまい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。