2026.10.03

奥さんは夜のあいだ右腕をルドンにきめられて筋を違えて眠れなかったというので、明け方になって猫をこちらにひきとって右脇に抱えながら寝かしつけた。ルドンは案外あっさりとぷーぷーと寝息を立て始め、それに続いて奥さんの寝息も聞こえ始める。そうやって午後まで動物たちの寝かしつけをしていた。一階の掃除と、洗濯を終えて、せっかくの適温の晴れ。出かけたいけれど遠出をするほどでもない。用事を作ってちょっとだけ散歩しようということになる。初めて入る蕎麦屋で遅めのお昼。ふらっと出ていける街が北千住から柏に変わり、いまだに楽しみ方がわかっていないところがある。ちょうどよく気の利いたカフェがない。というか個人店主のこだわりが見える店というのが古着屋しかない。古着屋も内装や照明までばっちり決まっているというところはない。カレーもあるっちゃあるか。ようは僕たちにとっての楽しさとは別のところに楽しさがある街なのだろう。僕が求めているものとは何か。内装と照明は細かいところまでいい感じであって欲しい。あきらかに百均みたいな安っぽい装飾を憎んでいて欲しい。その空間を居心地のよいものにしよう、個人のこうあれという理想を託された店。一軒でもあればぐっと景色が変わるような、本屋やコーヒースタンドやパン屋があればいいのに。などと思っていたらコーヒースタンドはあるっぽかったが、きょうは早仕舞いで入れなかった。北千住も別にいい本屋はなかった。奥さんが粘り強く検索し、一軒見つけたコーヒー屋はそこそこよかったので満足し、歩きながら録音しようとしたけれど道が悪くて諦める。けっきょくしっかり一万五千歩は歩いていた。この数日腰に不穏さがあり、歩けば治るかなと思っていたが歩いてもだめそうと思っていたのは夕方までで、これだけ歩けば気にならなくなっていた。お風呂ではKindleで『薬屋のひとりごと』を読んでいる。アニメは二期になってだんだんまどろっこしくなってきて、読んだ方が早いのではと思い、そのくせ律儀に頭から読んでいるからなかなか追いつかない。しかし、原作は視点人物が節ごとに固定され、描写も最低限でほのめかしが多い。だから、アニメのような第三者の位置から駆け引きのバランスゲームを楽しもうと思うとけっこう高度な読解を求められる。というか、アニメ先行だとそういう楽しさを目指してデコードするように読んでしまうが、これがけっこう難しく、ほとんど剥き出しのプロットに近い文章に感じられる。これから先追いついたとして、文章だけであの感じを再現する力は自分にはないのではないかと思わされる。僕は、アニメから透かし見える原作ではなく、原作を解釈し再構成するアニメのための読解の手つきのほうをこそ楽しんでいたっぽい。原作小説からのアダプテーションといえば引き算や換骨奪胎が必須で、つまり小説というのは小説にしかできないことをしておりそこにこそ面白さがあると考えていたけれど、この作品に関してはアニメのために補われ継ぎ足されている、アニメにしかできないディティールにこそ味わいどころがありそうだった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。