2021.11.10(2-p.166)

これは奥さんから聞いた話なんですけど、朝になって隣で寝てるはずの僕が「なんで」とすごく低い、怒気を含んだ声で言ったんだそうです。何事かと思って、しばらく様子を見ていると目を開けている。悪い夢でも見てたの、と尋ねると、

「いや、人の血を飲むか飲まないかみたいな話。」

と応える。答えになっていないような応答ですが、まあ起きたんだなと思って奥さんはそのまま話しかけ続けたんですね。なんか何でって言ってたよ、と。すると

「大丈夫」

との返事。何が大丈夫なの、と確認すると

「ご飯ひとパックで大丈夫」

とのことで、ははあ、まだ寝惚けてるんだな、とさっさと先に起き出して仕事の支度を始めたんだそうなんですね。

昼食後にこの話を聞かされた僕は、ご飯ひとパックで大丈夫だよと応えたことは覚えているのですが、血を飲むどうのという発言はさっぱり記憶にない。

午後はRyota さんの卒論「覗き見の映画史」を読み、その勢いで『燃ゆる女の肖像』を観る。大傑作。これは映画館で観たかったなあ。ゾンビの本のどれかを読んでいて気になったファノンの『黒い皮膚・白い仮面』を読み出して、うとうとしているとギリギリの時間になってしまい、慌ててご飯を食べて、ZOOMを繋ぎ、ゾンビ談義の第二弾。『セーラーゾンビ』について一時間半語り続ける。僕がホストのはずなのにゲストそっちのけで熱弁し、むしろRyota さんが聴き手の側に立って解説を挟んでくれる謎の回になってしまった。しかし最後は感動的な大団円を迎えられたと思う。七年前のドラマの話を一時間半も誰が聞くんだと思うけれど、それがいい。話は尽きず、そのまま第三弾まで録音してしまい、終える頃には日付が変わっていた。楽しかったなあ! twitter で「柿内さんの語り口が「新しいテーマ」を発見したことへの高揚感に満ちていてとてもいい」と書いてくれていたけれど、まさにそうで、僕はこうやって新しい思索のとっかかりを見つけた時が一番楽しいし、その楽しさをこうして誰かと喋ることでより膨らませたり拡散したりしていけるのが本当に嬉しい。とにかくここは自己中心的にどんどん享楽していこうと思う。ついてこられる人がいたら是非ご一緒しましょう。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。