2023.05.28

あす32歳になる。これといって代わり映えのしない毎日であるけれど、30はあれこれ重なって、もう死ぬんだな、と思っていたが、今年はとにかくなんの感慨もない。たぶん30で年齢になにかを思うことじたい終わったのだろう。しかしこのバカみたいな世界の、品性の下劣な国家の内側で、おおむねごきげんに過ごせているというだけで大したものではないだろうか。僕はとにかく放っておけばつらかったり深刻だったり苛烈だったり下品だったりしがちな世で、なるべく楽しかったり軽薄だったり穏やかだったり上品なようでいたい。わざわざこの世に前者のようなものを問う理由が、すくなくとも僕にはほとんどない。根が不真面目なのだ。毎日なんか嬉しいなということを見つけていけたらそれがいい。

夜は奥さんがホテルのアフタヌーンティーを予約してくれていて、ドレスコードはスマートカジュアルだそうだ。かしこい無頓着。風呂場からわかったぞ!と飛び出すような格好ということだろうか。ふたりともしゃらしゃら〜とお洒落に決めた。お洒落だと鞄が小さいので本が持てず、iPhoneでプラトンを読んでいた。プラトン、会社の飲み会の面倒臭え役員みたいなやつだ。アフタヌーンティーは夜だとフライドポテトがつくのだが、これがよかった。甘いしょっぱいの往復のうれしさもそうなのだけれど、お腹の具合も調整できるのもいい。こういうのはついつい次から次へと美味しい美味しいと一気呵成に平らげてしまうよね、と話していたけれど紅茶をおかわりしたり小休止を挟んでいると二時間たっぷり楽しめて大人だった。今年も最悪のほうへと流れがちなのをへらへらと逆走していこうね。なるべくバカのフリをしないで済むように気をつけながら、賢さを過信もしないように。そんな感じの33歳をやっていこうと思う。まちがえた。32だっけ。あれ、もうわかんなくなっちゃった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。