2023.11.17

不細工な男がかぱっと口をあけて寝ている。停車して目が覚めても口はあいたままで覚醒しきってようやく閉まるようで不気味だった。またすぐに眠りに落ちて、かぱっと口がひらく。

久しぶりに着たジャケットの胸ポケットから2019年の冬にシアタークリエでかかっていたリーガリー・ブロンドの半券が発見された。

どちゃ降りで、猛烈に眠い。昨晩は三時くらいまで話していたからこうなることはわかっていた。雨は昼を過ぎてもやまない。

手をつなぐような寄り添い方をして背広の男たちは橋を渡るから、すれ違うときにローソンのコーヒーをぶち撒けそうで不安だ。あくびは出ない。手が震えている。

事務所のごみ箱があふれていて、僕の当番は明日だ。それもこの事務所のではない。明日は寝坊したい。寝不足の日は想像しているよりも動けてしまう。動けてしまうこと自体への戸惑いのほうがじっさいの不調よりも大きい。

じぶんの本をどう売っていくか、販路の拡張を考えている。とにかく楽しむためには、つねにこの社会との和解のできなさを思い知ることだ。この程度は売れてしまう、という見込みの、さらに向こうへと無茶をすること。それじたいが遊びだ。どこにいても安心して馴染めないという感覚がなくなってしまったら、おそらくなにも面白くない。無理かもしれない、というところでひりつく感覚こそが癖になる。受け入れられること、友達が増えること、それははしゃぐ。けれども、遊びというのは常に向こう側では誰も受け止めてくれないかもしれないという心細さと共になす跳躍で、親しい思いを抱いているところからも次の作品は拒まれることがある、そういうところがないと退屈で、その退屈はあまり好きではない。

ひと眠りするとすっきりする。

夜は蓮實重彥「些事にこだわり」を三篇ほど奥さんに朗読してきかせた。長ったらしい一文が、耳から読んでも一目で頭に入ってくるから流石であると感心していた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。