2026.03.22

朝はのんびりめに起床。スーツケースは宿に預けて歩き出す。快晴。おしゃべりしながら萬代橋を渡る。遊覧船が悠々と水上を走っていて楽しそうだ。開店前のTADAYOIやマンガの家を名残惜しく眺めつつ、ドカベンのアーケードへ抜けて、笹川餅屋に辿り着きお腹がちょうど鳴るのだが、ここじゃないよと言われて初めて目的地を勘違いしていたことが判明。もうちょっと歩く。ここらで気がつくのだが、井上さんへのお土産を宿に置いてきてしまった。取りに戻るほどのものでもないし、午前中の新潟デートも捨て難いので諦めることに。愚か。

美豆伎庵金巻屋には笹団子がなくて笹団子の口だったのでやや残念だったけれど、ぽっぽ焼きと米万代という名前の草団子を休憩スペースでいただく。ほうじ茶もいただいてほっとする。百二十年くらい前に制作された明治の雛人形が飾ってあるのを眺める。もうちょっと食べたいのでまた歩く。奥さんがTHE COFFEE TABLE というお店を見つけて、覗いてみると満席で、でも軒先のベンチでもいいならいいよということで、いいよと座らせてもらう。浅煎りのコーヒーと、越後姫のクリームタルト、狭山茶のグリーンチーズケーキ。とびきりおいしかった。きのうもそうだけれど、新潟は行くお店行くお店言葉を尽くして説明してくれるのが好ましい。行ったお店がすてきなのか、県民性なのか、商人の街ということなのか。堪能したおかげですっかり遅刻気味で、人情横丁という堀の上の商店街を抜けて、北書店へ向かう。青木さんと店主の佐藤さんが熱心に話し込んでいて、何かと思ったらプロレスの話だった。二言目には、君はプロレスを見るんだって?と始まったらしい。それからまた三十分くらいプロレス談義。棚もぐっとくるセレクトで、鹿島茂の菊池寛の評伝とちくま学芸文庫の『読み書き能力の効用』——「リテラシーは大衆文化をどう変えたか?」——を手に取る。さらに、これは面白いよ!と勧められた伊野尾書店——本屋プロレスの会場だ!——の本を買う。

バスで内野の複合長屋「たねむ」へ向かう。車中ではプロレスの話からだんだんいつもの進路相談へ。若さというバフを失った後にもいけしゃあしゃあと好き勝手やっていくにはやはり博士号か住所のあるタイプの屋号が要るのではないかという話を初めて打ち明けて、しかし話していくうちにやはりそうでもないかもしれないなという気分になってくる。十三時すぎに「たねむ」着。ウチノ食堂のおいしい定食で人心地。コーヒーまでいただく。野呂さんと青木さんがすごく仲良しで、会った瞬間からうきうきしたようすでかわいい。食後ふたりでその場で合気道のワークを始めたりきゃっきゃしていた。奥のこんこん堂のトークの設営は昨晩の皆さんがせっせと行ってくださり、こうやって当たり前に人の手を借りてできあがっていく空間というのはとても居心地がいいなあと思う。のんびりしすぎてあっという間にトークの時間。ふた間をぶち抜きで、本棚を挟んで向こう側まで人が入るという盛況ぶり。話し始めはそろりそろりと、だんだんと温まっていく二時間ほど。北書店の佐藤さんが、なにをするにもプロレスを知っているかどうかで違うんだというような話をしていたけれど、こういう場での展開の仕方や、会場の空気をどう巻き込み変えていくかという手練手管はプロレスを参考にするというよりもプロレスでより一層意識的になったところはあるだろうか。もうすこし早めに切り上げて歓談の時間を取りたかったけれど、白熱してたっぷりやる。そのためやや慌ただしく青木さんを空港に送る車に同乗し、駅まで井上さんに送ってもらう。宿でお土産を回収したと連絡が入っていたので、なんとか奥さんと合流して井上さんに渡せないかと画策したが車というのは小回りが効くようで停車が難しい。けっきょく渡せず。駅近くの佐渡 弁慶の泣き処というお店でお刺身を食べる。南蛮海老めちゃうま。新幹線は結局終電のチケットを取って、ぎりぎりまで駅ビルで粘って新潟名物を買い込む。帰りはくたくたで、無になっていたらすぐに帰宅していたというか、だいぶ意識が飛んでいた。ルドンがもう辛抱たまらんという様子でお出迎え。頑張って荷解き。おもちゃを振り回してルドンを大はしゃぎさせる必要があったり、玄関の扉が開かなくなったり、お腹すいちゃったと奥さんがカレーヌードルを食べ始めて匂いがすごかったり、帰宅以後も色々たいへんだったが浴槽に使ってようやくとろけた。あすからはふだんどおりだ。やれんのか?

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。