2021.04.26(2-p.53)

初台にしようか下北沢にしようか。すこし悩んで、普段であれば初台なのだが、ふと学生時代バイトしていた蕎麦屋の状況が気になった。町の蕎麦屋で商圏はもとから周囲が中心だし、僕がいたころも昼休憩の会社員はそこまで多くなく大半は近所のお年寄りだったから心配はないかもしれない。そういうお店だから検索してももちろん最新の情報が出てくるような感じではない。行っても閉まっているかもしれないし、わざわざ電車乗っていくのも迷惑だろうか、とか思いつつ、足は梅ヶ丘に向いていた。改札を出る前からすでに懐かしく、僕にとってここは心の柴又なのだ、とわかる。駅前の商店街のラーメン屋も、キッチン南海も、名古屋から越してきたあと両親と食べた町中華も、使い倒したコインランドリーも、何個もダメにしたサボテンを買った花屋も、全部そのままあって、ああよかったあ、と自分でもびっくりするほどほっとした。記憶の通りにお店が残っている、あいかわらずの風景がある、ほんとうに柴又みたいだ。蕎麦屋は入るとすぐに店主は僕に気が付いてくれて、帽子にマスクでよくわかるものだ。鳥南蛮そばをお願いする。みんなニコニコと嬉しそうにしてくれて、商売はやはりそこまで痛手はないけれど、気疲れがしんどい一年だったねえ、いつまで続きますかねえ、お前いくつになったの、もうすぐ三〇ですよ、もうそんなになるのかあ、などと世間話。おかみさんまで出てきてくれて、いつだか一緒に来たことも覚えていてくれていたのだろう、帰り際、奥さんにもよろしくねえと言ってくださる。ここはとらやだ。なんだか僕はいつの間にかずいぶん義理堅いというか、こういう人付き合いがちゃんとできるどころか、喜んでもらえてよかったなあ、元気そうで何より、顔出して本当によかった、などとほこほこするくらいになっている。休憩時間に居場所がなくて意味もなく廊下を何往復もしていた一〇代前半のころのことを思うと嘘みたいだ。

世田谷代田に至る坂を登って、きょうは富士山が見える日だったのでラッキー。鰻屋の前はいい匂いがする。銭湯のところで下り坂で、『下北サンデーズ』にも確か出てきた豪邸を過ぎる。ここから下北沢までの道のりが、BONUS TRACK ができたおかげでぐっと短くなっている。B&B で深呼吸。中世のやつとダナ・ハラウェイのサイボーグのやつを買って、fuzkue へ。テイクアウトが結構出ていて、外の音や人の声がとんとこ入ってくる。それもまたいいアクセントのようで、ダナ・ハラウェイを読み始め、これはいま読んでいる『機械カニバリズム』にも通じそうだなと思い至る。きょうはここで読み始めようと持ってきていた『人体は流転する』と『〈聖なる〉医療』を二十ページずつくらいやって、またダナ・ハラウェイに戻って、久保明教で〆る。帰りにコーヒー豆を買っていく。格好いいコーヒーラベルを眺めていたらにわかに絵を描きたい欲がまたやってきて、あ、iPad 買お、と急に思い立って新宿に向かう。自分でもこの衝動をうまく説明できないが、ずっと使っているのは初代のiPadで、pencilが使えないどころかOS も更新できなくなって久しくそろそろ動かないアプリが増えてきた。僕はずっとあのpencilに憧れがあるらしく、何度か購入を検討したが見送っていた。それが何故か今日、買うぞ、と決まってソフマップを覗いてみたら第七世代のやつが二万もしないで売っている。即決だった。pencilと合わせても三万しない。これは得しちゃったなあ、と電車の中で新品で第八世代を買うならpencilと合わせて五万かあと思っていた僕は実質二万の収入を得た。セットアップのためWi-Fi求めて珈琲貴族へ。もろもろセッティングしつつ、『機械カニバリズム』。帰りの電車では描き心地を試してみたり、DMM で『ドロヘドロ』を読んだりした。

夕食はコロッケ。コロッケめちゃ好きかも、という気づきを得る。

FGO でネロちゃまに新しいおべべが来る! かわいいねえ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員。プルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、「家」の別のやり方を模索するZINE『ZINE アカミミ』などを制作。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。