2021.07.15(2-p.150)

移動中は受け取ったばかりの「H.A.Bノ冊子」一〇号を読んでいた。距離感を読み違えて約束の時間ぴったりに着くと松井さんはもうお店で待っていて、お店も松井さんの教えてくれたところだった。蔵前のことは松井さんの方が詳しい。教えてもらったお店はいい雰囲気の食堂で、入ると物販のコーナーもある。そこで待ってくれていた。きょうはお昼を食べながら色々と相談という名目で雑談をする日で、美味しいご飯を食べながら僕はほんとうに取り止めのないことばかり話した。とはいえしっかりと本をまた作るぞという気持ちは湧いてきて、ありがたかった。こうやって、特にまだ確信のないことや、ほんとうにどうでもいいことばかりボソボソ話しながらご飯を食べるのなんていつぶりだろう。食後はコーヒースタンドを教えてもらってそこで冷たいのを頼んで、出来上がりを待ちながら先日の対談の自慢をした。コーヒースタンドは活気に満ちていて、のんびりと眺めながら待つ。スーツを着た男性、ラフな髭、前側に子供用のシートを搭載したママチャリの女性、どんな人でもふらっと寄れるようないい雰囲気だった。このへんはやっぱりいいな、と思う。松井さんは読書Tシャツを格好よく着ていて、強い日差しに白地が映えていた。帽子も白かった。コーヒー片手に隅田川まで歩いて、川を下ってくる二十世紀に想像された二十一世紀の流線型みたいな遊覧船を指して、あれ、当時はほんとに未来っぽくて格好良かったんですかね、そもそもいつからあるんでしょうね、と松井さんが言った。僕はそれを橋の向こうに見えるあの金色のうんちみたいなオブジェのことだと思って、あれは寅さんにも出てきました、と応えると、え、あれってそんな昔からあるんですか、とここで僕は勘違いに気がついた。なにかの流れで上京に関わるなにかの話になって、そこで松井さんは笑い話のように箱根駅伝が関東圏の大学だけの大会であることを高校生くらいまで知らなかったこと、東海大学というくらいだから愛知の近くにあるのだろうと信じ込んで一生懸命応援していたことを教えてくれた。僕は箱根駅伝が全国大会でないこと、東海大学が東海地方にないことを知って驚いた。なんてことだ。松井さんが一五年くらい持ち続けていた勘違いを、僕は三〇年なにも疑わないままでいた! そう言ってふたりでアハハと笑っていた。浅草の辺りで川から離れて、雷門の前の通りを真っ直ぐに行く。本誌ではヒロアカがいい感じらしい。楽しみだな。交差点のところで松井さんと別れて、ありがたかったなあ、と思う。こうやってなんでもない時間を共有するようなことをもっとしたい。

それからバスにしようか電車にしようか決めあぐねて歩いていると頭がくらくらしてきて慌ててマスクを外して深呼吸をして、炭酸水を買って流し込んだ。結局たくさん歩いた。意地になって必要な買い物は全部済ませて帰る。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員。プルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、「家」の別のやり方を模索するZINE『ZINE アカミミ』などを制作。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。