2021.08.28(2-p.150)

昨日はまた日記を書かずに寝てしまった。眠くてたまらなかったのだ。翌日に持ち越すと日記を書き出すモードにするためのギアがとても重い感じがあって、書ける気がしないな、という気持ちがある。夜に書くときはそんなことはなく、てきとうにやれる。『プルーストを読む生活』のころはどうだったかというと、ツイート代わりに細切れに下書きを溜めていたのを夜にまとめるようなことが多かったから、やはり一回睡眠を挟むともう書く気がしないのかもしれない。僕は寝てしまえばだいたいのことは水に流せてしまうが、それは睡眠を挟んで持ち越せる記憶に乏しいということなのかもしれない。この書けなさはしかし面倒臭さではないというか、僕は何かを書くことを面倒だと思ったことがない気がする。書くのは特に苦労ではない。苦労ではない書き方しかできない、というのはすこし残念というか、もっと苦労して練り上げられた文章を書きたい気持ちもなくはないのだけれど、苦労なく書くことの方への興味の方がいつも強い。

昨晩の睡眠スコアは88。「87%のユーザーよりもよい睡眠です」。FitBitのニセモノは、MiFitというアプリと連携されるのだからMiFitというのだろう。いろんなことが知れる。昨晩の睡眠時間は7時間40分。深い眠りがそのうち1時間49分。「25%の人よりも早く寝て」いて、「53%の人よりも深い眠りが長」かったらしい。数値化というのは便利なのだがすぐにこうやって他人との比較に持ち込まれてしまう。睡眠競争。寝起きには22だったストレス値が、この文章を書きながら86まであがった。僕はよっぽど数値の持つアフォーダンス──他人との比較──が嫌いらしい。こういうことも数値化するから知れる。こうやって内省の道具である範囲で遊べれば面白い。さて、今僕のストレス値というのはユーザーの中で上位何%の位置にあるのだろうか。

さて、これは昨日の日記なので昨日のことを書いておかなくちゃいけない。いけないということはない。けれども昨日は楽しい一日だったので楽しかったことだけ書いておきたい。

仕事を終えて、川に向かった。「夏の夜の夢」と銘打たれた会合に参加するためだ。河原で、水の流れを眺めながら適切な距離を保ちつつ、オベロンの話をするための会だ。オベロンの実装後すぐに開会が約束され、どこか晴れた夜の河原で、ということだけ決まっていたのがとうとう実施となった。とても楽しみにしていた。河原は人がそこそこいて、夏休みの終わりを惜しむように花火を楽しむ親子グループ、ベンチを占領する無数のカップル、下品な男たち、などがこぞって集合していた。そんななか我々は川に向かって段々に降っていくコンクリートに腰掛けて、そこから二時間強、ほんとうにFGO の話だけをした。とても楽しかった。オベロンについて語るということは二部六章を語るということで、つまりそれはFGOについて語るということだったので必然的に各々の推し語りにまで辿り着く。物語、演じること、英霊が金粉撒き散らしながら死んでく構造について──色々と話したが、僕が自分で喋っていてそうだったのかと感心したのは、オベロンだけが真剣にキャストリアをセイバールートでなく桜ルートに乗せようと頑張ってたんですよ、というような発言だった。そうなんだよ、キャストリアは桜でいて欲しかったんだ僕は、と気がついて、よりオベロンへの想いが深まった。よい会だった。まだまだ語り足りないので第二回第三回と開催されたらいいなと思う。六章の話のなかで、創作内で自己言及的になされる創作論というのはいつでもいいものだ、という話も出て、僕はやはり濱口竜介の映画を思い出すのだがこれは話しそびれた。

夕食は奥さんと同居人が先に食べているつもりが副菜にスフレオムレツがあるからやっぱり一緒に食べた方がいいとの連絡が入り、走って帰る。豪勢な夕食を楽しむ。たくさん喋ってたらふく食べてもう眠かった。いいご身分。歩数が目標値に届かなかったので、シャワーを浴びながら足踏みをしていたがいつの間にか日付を越していてリセットされてしまった。せっかくだから届きたい、すっかり機械の奴隷。けれども、なんかもうちょっと歩かなきゃな、とか運動しなきゃな、というのを促されるのは悪くはない。神経質に目標達成を目指し始めたらやめようと思う。気がついたら眠っている。スコア88の眠りだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。