2021.11.09(2-p.166)

お通じの状態に一喜一憂する日々だ。今朝はすこしゆるかった。

明け方風がものすごくて二人揃って目が覚めてしまって、ドタバタと寝返りを打ったり耳栓を探したり慌ただしくしたあと、すんと静まって身を寄せ合うようにして眠った。変な夢を見た。朝はもう起き上がれる気がしなかった。それでも起き出して昨日のカレーをホットサンドにしてくれたのを食べて顔を洗って着替えるとちゃんと目が覚めているから納得がいかない。外は雨でけぶっている。気圧は15時までずーっと下がりっぱなし。こんな天気の日に、何ができるというのだろう。なあんにも。重力に逆らって縦になってるだけでもうみんな褒められていい。

仕事も捗らず、本も読めず、諦めて雄大な風景でも眺めてたい、と映画を観ることにして『ノマドランド』。雄大なアメリカ。空疎なアメリカ。優しいアメリカ。寂しいアメリカ。いま見たい景色や顔や体がそこにはあって、うわあ、いいもの観たなあ! と嬉しくなる。フランシス・マクドーマンドの表情を見ているだけで感情が波立つ。景色と人の表情が等価に綺麗に撮られていて、それがとてもよかった。あと排泄シーンの寒そうな感じが滲みた。自分の胃腸の具合に不安があるから余計にそうだったのかもしれない。

元気が出てきて『平城京に暮らす』を読み終える。八世紀を暮らした人々の暮らしを掘り起こす。とてもいい本だった。少なくない官僚が連休明けに腹痛を起こして欠勤したり、無断欠勤のタイミングでうまい具合に親族が倒れたりしていて、可愛い。この頃から人は働きたくなんかなかったのだ。お酒を工面しようとする文書の大仰な遜りなんかも面白い。生きている限り、人はなにかしら喜びや楽しさを見つけ出そうとするものだ、という楽観が素敵。そういう態度でずっといたい。

なんか軽いものを、と手に取った『偶然の聖地』が面白くてアハハと笑いながら読んでいると、退勤した奥さんがやってくる。あ、久しぶりに怪談じゃない本読んでる、と面白そうに言う。すぐに本を閉じて、おかえり! とにっこりすると、奥さんは顔をくしゃくしゃにして、ハァ〜ここに帰る場所があったよぉ、と喜んだ。退勤して声をかけても僕が本から顔も上げずに素っ気なくするのが嫌だからやめてとつい最近指摘されてから、このように笑顔でお迎えをしているのだけど、そうなるとこれまでの素っ気なさが思っていた以上に悲しかったことに気がつく、奥さんは言った。だいたいのことは後から気がつく。ああ、あの時傷ついていたんだな、というのは後からわかるものだし、怒りも遅れてやってくることが多い。僕はずいぶん若い頃からお前は振り返ってばっかりだ、と言われ続けてきた気がする。それでもいい。これまでのことを振り返って、怒ったり笑ったりするだけでも、ずいぶん豊かに過ごしていける気がする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。