2023.01.18

『今を生き抜くための70年代オカルト』を読んで、だいたいは『何かが空を飛んでいる』で読んだ話が多いし面白さもこちらのほうが圧倒的ではあるのだが、近年の日本における通時的なオカルト受容史としてはこちらのほうが整理されている。僕からすればイエティもビッグフットもネッシーもアンゴルモアもユリ・ゲラーもすべて過去の集合として団子になっているが、当然のことながら当時を生きた人にとってはケネディ暗殺のあとに東京オリンピックがあり、さらにそれから月面着陸があるというのと同じように、オイルショックに先立って来日するユリ・ゲラーというのはありえなかった。『木曜スペシャル』の放送開始、『日本沈没』出版、五島勉『ノストラダムスの大予言』がすべてオイルショックと同じ1973年であるというのを年表で確認するとなんだか迫力がある。公害問題の顕在化、宇宙開発、このころの時代の気分というものははやりなんとも野蛮で元気いっぱいな感じがあって、なんというか未知もいずれ既知となるフロンティアとして楽観されているようで頼もしい。この時代を生きた人は、そりゃ僕らと異なる環世界にいるよな、と思ってしまう。

今日のお昼どうしようかな。平日のランチはいつもちょっとだけ幻滅が伴う。思ったよりも高かった、量が多かったり少なかったりした、店員さんがイライラしていた、床がペタペタいった、ほかの客の圧が嫌だった、そもそも食べたいのこれじゃなかった──、なにかしらの「こんなはずじゃなかった」がほとんど毎回あると、いつしか行くお店が代わり映えしなくなる。

限られた時間で、未知に踏み出すだけの好奇心や勇気を振り絞る。ちょっとした冒険に必要な元気が減退してるのを感じる。たいしたことじゃないのに、どうしてこうも失敗を避けるようになってるんだろう。

心身ともに傷の治りが遅くなってきて、せめて自分は自分に優しくしてあげようという気持ちが強くなってるけど、それは傷つきを回避できるようにあらゆるリスクを取り除くということではないのよな。自分はちゃんとやってみたいと思えば挑戦できるし、傷ついたとしても立ち直ることができるのだと何度も言い聞かせるほうがずっといい。ハチクロの森田みたいなこと言ってる。

しかし、こうも賃金に対して釣り合いがとれないほどモノの値段が上がってると、一回のランチの失敗はたしかに大ダメージではある。

今日は凶暴な気持ちだったのでガーリックチップの載った味噌ラーメン。900円。初めての店で、一度通り過ぎて、思い直して引き返した。ふつうにおいしかった。だいたいの挑戦は、良くも悪くもないまずまずのところに収まる。そして可もなく不可もないありふれた結果というのは、心配性で欲張りな人間からすると拍子抜けで、やはり幻滅を呼び起こすのだ。

ティリッヒの『生きる勇気』を読みつつ、お風呂ではKindle 読み放題で宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』、枕元には『〈世界史〉の哲学』という併読をしていると、どれも近代において「個人」と「社会」とが成立する過程を追い、両者のあいだの緊張がどのように調停されうるのか、という絵を描こうとしていて、別々の本を読んでいるはずなのにお互いを補完したり撹乱するかのように混濁していって楽しい。復刊の報をきいてから再読したい『〈個〉の誕生』をここに加えたい気持ちがあるが、流石に手に余りそう。

『この同人音声がすごい!』も買えたので、午後さんの論考から読んでいく。ほかの寄稿者とのおしゃべりも、作品ガイドも、一貫してペダンチックな身振りが醸し出す滑稽に満ちていてたいへんよい。書いていて楽しかったろうな、と思うし、衒学への関心と「こいつアホだ」という呆れとをちょうど半分ずつ抱かせる手腕に舌を巻く。精子になって卵子を目指す「赤ちゃん以前プレイ」の同人音声を聴いてみたい。あと二時間かけて怪物に食べられるやつは、ゾンビに食い散らかされるのを疑似体験できるかもしれない。原理的に一人称視点と同化することを求める音声作品は、ホラーとの相性もよさそうだ。僕はVR もそうだがおそらく作中主体に自己を重ねることがうまくできず『マルコヴィッチの穴』みたいな気分になる気がしているけれど、どうなんだろう。とりあえず今日のラーメンよりも安い作品も多いことは確認した。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員。プルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、「家」の別のやり方を模索するZINE『ZINE アカミミ』などを制作。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。