2024.04.29

午前中はのんびり。ぎりぎりまで昼の部を観るか迷ったが、面白くても影響を受けてしまいそうだし、つまらなくても疲れるだろう、せっかくだったらまっさらでやろうと決めて行かないことにする。部屋のなかは蒸し暑くて窓を開けて風を通す。荒川沿いを歩いて小台までゆく。この日は二万歩ちかく歩くことになる。川に沿って歩くのは気持ちがよい。いくつもの野球やサッカーの試合が催されており、それぞれを見守る大人たちがいる。すこし汗ばむくらいの陽気。奥さんと並んで歩きながらおしゃべり。いま読んでいる『批評メディア論』を引き合いに出し、ある概念が現在の語で呼びならわされる以前の時期、その黎明においてすでに別の言葉づかいであらゆる議論は出尽くしていることなどから始め、批評の話はとうぜん先日書き上げた2.5次元舞台論へと援用されていく。あるいは、とるにたらない雑文の集積が形成する「界隈」こそが言説を方向付け、少数の署名された制作物へと結実するという話から話題は史学へと移っていき、市民に主権を担わせえるという企画が必然的に抱える無謀さについてわーわー喋る。そうかと思えば王の二つの身体をキャラクターと俳優の関係に重ねてみたり、すぐに脱線していく。楽しいお散歩だった。途中でホームセンター内のフードコートで軽食をとり、隅田川を渡ってあらかわ遊園を柵越しに眺める。連休中とあって賑わっており、何年かかけて補修していた甲斐あって以前はくすんで見えた園内はずいぶんカラフルだった。鷹匠がおり、カピパラやカンガルーもいた。入園料を払わずに外からこうして眺められるというのはいい。そもそも入園は無料でのりものチケットを買う方式だったかもしれない。おぐセンターと梅の湯と同じ通りに、フランスの王室御用達のパン屋が店を出しているとのことだったので行ってみる。パンではなくクッキーを買い、ケーキセットを頼んで喫茶スペースでいただく。

時間になったのでおぐセンターに向かい、「即興と反復」の本番だった。プロジェクターの動作確認を行い、すぐに開場。投影したドキュメントにさくさくと何か書いていこうという以外、なにも考えていない。五分の即興、五分の議論が三セット。一五分で一セット。休憩をはさんで三〇分一セット。とにかくパフォーマンスとディスカッションを繰り返していく。いちどタイマーが起動すると容赦なく進行していく。最初の三回の五分は空間や共演者との距離感を探り合う時間で刺激的だった。他のメンバーが身体表現寄りだったので、たぶん簡単にパフォーマンスめくだろうという予想はあり、僕はそこになるべく与したくないなと思っていた。鈍くさくあること。即時の応答を躊躇い、その場で起こることを遅延させること。そのようなことを試み、ある程度道筋が見えたのが繰り返された五分であった。ただ、こちらが自閉していると他からの介入の余地も小さくなってしまうのが難点だった。もっと働きかけてもらえるような隙を見せつつ、頑なに自閉するという方向を示せたらよかった。イメージとしてはプロレスでヒールにいじめられる会社の偉い人のような状態がよかったかもしれない。リングでひとりだけ異様に貧しい身体。十五分はいちばん長くて、そこまでに確認できたことを意識的に組み合わせ反復してみる。ここでプロジェクターの電源が落ち、最後の三十分は文字抜きでなんとかすることに。試しに録音した音をその場で編集し再生するという仕方で先ほどまでの試みを変奏しようとしたのだが、モードの切り替えやデバイスの操作を習熟するだけであっという間に過ぎてしまい、そうこうしているあいだに身体による強度ある時空間が設定されてしまった感があり、ほとんど何もできなかった。いちど非言語的なものとしてパフォーマンスが軌道に乗ってしまうと、露骨に作為的な音や照明による演出や、意味の磁場が強烈な発話というのは途端にダサく野暮なものになる。そうなるともう黙っているほうがマシだった。しかし、個人としての成果だけでいえばそれでも乱暴に介入を試みてもよかったかもなと反省しなくもない。難しいな、と思うし、見世物として成立したとは思えなかったけれど、またやってみたくはある。人前でなにかをするとき、安易に虚構を立ち上げない方法をもっと探りたい。今日のは、ちょっと格好よすぎた。あと、笑いというのは客席からのわかりやすいフィードバックで、演者も観客もついつい求めてしまいがちだが、そこに居直るのはあまりよくない気がした。ふだんのお喋りのような即興性を、いかに舞台的な場所で発揮するか。昼間の河原の散歩のようなモードを、しかし単体で立ち上げるのは難しそうだ。話し相手がいないと。

打ち上げはなさそうだったので奥さんと合流して帰りはバス。夕食代わりにかるく飲んで、へろへろになって、どろどろに眠る。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。