2024.06.10

あっという間に六月も十日だ。昨晩から入稿に向けた追い込みで、けっきょく遅くまで赤字反映チェックなどをしていた。朝の連絡で明日まで待ってもらえそうとわかり、ひと息つく。在宅レイバー。

そろそろ文芸誌を読みださねばやばい。『文學界』は短編ひとつに中編ふたつ、この中編がどちらもそこそこ長めで、時間がかかりそう。『群像』は分厚いが批評特集で創作はなし。とはいえ読みたい、面白そうなのがたくさん載ってる。『新潮』は円城塔の連作を除けば三本で、たぶんぜんぶで八〇頁もないくらい。『すばる』は『文學界』にも書いてる古川真人の中編で、こちらもそこまで長くないから『文學界』さえ終えれば安心だ。古川真人の『文學界』のやつを読んでいて聞いたことのある話だと思うと先月の『新潮』の短編とおなじ家族の話だ。もしやと『すばる』をぱらぱらすると、これも同じ親戚の名前がある。なるほどね。

夕食は鮎の塩焼き。あさりで味噌汁と酒蒸し。本当はぜんぶ味噌汁にするつもりだったけれど、昼に砂抜きするときぷくぷくとかわいく、もっと色々したいと思い直したのだった。子どもの頃から塩水につけた途端にぱかぱか口を開けて水や砂を吐くあさりの姿がなんとも好きだ。味もおいしい。デスペの特別企画を有料配信で買って見ながら包丁で鮎の滑りをこそげ取り、塩で洗ってキッチンペーパーでよく拭く。ヒレに塩をこんもりつけるのは、燃えないように保護する意味合いなのだと初めて知った。魚の塩焼きを自炊するのは初めてで、緊張しながらコンベクションオーブンでじっくり焼く。素材の引き立つ仕上がりで満足。どうすればよいのか知らない素材をとりあえず買ってみちゃうというのは自炊の幅を広げる。これは読めるかわかんない本をとりあえず買っちゃうのと似ている。背伸びや深い考えのないことが拓く道がある。というか、そうでもしなければ、思慮深いうちは、がむしゃらな開拓の労をとろうなどとは思わない。しっかり考えるとは手間を惜しむということなのだから。とりあえずやってみようというのはもっとも非効率でありながら、不思議ともっともはやい道のりでもあったりする。ていねいな熟考の末えらんだ最短ルートよりも、爆速で遠回りするのが速い。人によるだろうけれど、僕はそうみたいだ。頭が悪そう。

デスペ興行を見て、FREEDOMS で見た面々がたくさん出ていて最高だった。ジャック先生! レゴブロックハードコアマッチが大好き。あれだけでもとはとれた。デスぺが終始楽しそうで、自分の見たいものを実現するオタクというのはキラキラしていていいな、そしてそれは編集の仕事とたぶん似ているなと考える。というわけで、観戦後は冊子編集のクライマックス。なんだかんだで間に合ってしまいそうですごい。これもまたわけもわからずやってみたらできあがるというものだが、あまりこういう成功体験は積まないほうがいいようにも思う。もっとスマートに、無理せずさらっとやりたいものだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。