2024.11.05

朝から皮膚科の予約を取っていたので出勤前に雑居ビルに入ったそれに入る。電車の乗り換えの関係で思ったよりもずいぶん早く着いたけれど、あっさりと問診票を渡され、血圧計で測った結果と一緒に窓口に差し戻すとほどなく診察室に呼ばれる。左肩に半月ほど前からあって、一時は大きく膨れ上がったものの今ではずいぶん小ぶりになった、正直なところこのまま放っておけば自然と消滅するのではないかと思っていた粉瘤を、しかし奥さんは皮膚科に行きなさいと言い、調べてみるとじっさい自然消滅はないらしいが、僕はこれまでもこういう瘤ができてはいつの間にかなくなっていたような気もする。でも奥さんの言うことはいつも正しいのでいうことを聞いて予約をとった。やはり粉瘤ですねとこれもまた一目で言われ、再び待合室で待つと手術前の簡単な説明があって、取り出した瘤は検査に回して結果は来週の抜歯で教える。悪性の場合はすぐさま電話もするよとのこと。じゃあ奥の処置室までよろしくと言われるままに向かうとこれもまたすぐに通されて、じゃあ台に寝てね、あ、服汚れちゃうかもだから上を脱ごうかと促されるままに手術着に着替える。麻酔しますね、と声をかけられて、チクリと刺さる。こんな感じですけど大丈夫ですか? 大丈夫です。そう応えるとしばらく刺される感覚が続き、フェルトのようにチクチクと何度も刺されるからもうすでに処置が始まっているのだと思う。ぐるりと円を描くようにしたあと、ようやく、じゃあ切っていきますと宣言があるから、これまでのはぜんぶ麻酔だったのだ。何かが押し当てられるような感覚があり、小さくゴリッ、ゴリッとほじられるような音を左耳がとらえる。ぼんやりと天井を眺めながら、意識があるままに食べられるのって感覚ないほうが怖そうだなと考える。そして、そういえば粉瘤をとる小説があったなと思い出す。あれにもたしか、切開の感覚は圧迫感としてしか知覚できない状況について書いてあった。終わって、支払いの現金が足りずにおろしに一度出る。二万近くかかって、痛くも痒くもない痼りひとつに過剰な気もした。処方箋を持って薬局へ行き、左肩に感覚がないからリュックが扱いづらい。そもそも幹部にベルトが当たっていいのだろうかと思う。受け取った抗生物質を入れるためにリュックを持ち上げるとき、いつもの癖で左手で行ったら、ブチっという衝撃が内側に走り、しかし麻酔がまだ効いているのか痛みなどはなく、糸が切れたかとひやひやした。鏡で確認すると包帯に血が滲んでいる。ひとまず労働。

帰宅してシャワーを浴びて包帯を取り換える。二針縫われていて、切れてはいなかった。黒い糸の存在感は強く、うええ、グロい、ゾンビだあ、とふざける。ゾンビは傷口モロ出しでいちいち縫わないだろう。二人とも縫うような怪我をしたことがないので、大袈裟に騒ぐ。奥さんは、私が軽々しく皮膚科に行けといったせいで、こんなふうになってしまった、としょげてみせる。じっさいそこまで困っていなかった瘤一つが、具体的なエラーとして顕在化しているという感じはある。シャワーを終えて、グレゴリー・ケズナジャット「痼り」の後半を朗読する。おおむねこんな感じだったよ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。