2025.04.01

猫が六時に鳴きだす時点で寒さを予感してもよかった。膝で暖をとらせながら本を読む。雨も降っており体感はマイナス二度とのことだ。家を出たくない。玄関で傘立てを引き倒した。元に戻す時間も気力もなくとぼとぼ出かける。けさの松浦寿輝は、インターネット文化への悪口が冴えていた。こういう良識も知性も持つ年寄りの保守性はとても大事なことだ。朝食はちゃんと摂ったがすぐ腹が減る。ものすごい寒さだ。ひどすぎる。桜が咲くとすぐさま散らそうとでもいうように雨が続くから気が滅入る。冷たい。ぜんぶ冷たい。新年度の電車は不慣れな若者たちが期待と不安とで胸と車両をいっぱいにする。こんな日に外に出てはいけない!

それなのによんどころない事情があって出勤。五分でよんどころなくなくなる。もう帰りたい。

帰る連絡をしてから、遅延とよれよれ歩きで帰宅が遅い僕を、無事?と気遣う返事が来る。無事じゃないよ。やさしくして。びしょ濡れのズボンを嫌がって猫も膝に乗らない。奥さんがホットカルピスを持ってきてくれる。やさしい。食器や調理具も、食べ始める前に洗えるものは洗っておいてくれる。やさしい。冷え切って食欲がないので先にお風呂にしてくれる。やさしい。流石に元気になってきて、お礼を言う。やさしさって残酷だよね、もう頑張れないひとを頑張らせちゃうんだもの、と奥さんが言うので、そうかもしれないけど、僕らは残酷だと言って何か言った気になるような青臭いフェーズはとっくに過ぎている、そうやって頑張っていくほかないんだ、と応えた。もうだいぶ大丈夫だろう。雨音が聞こえるたび気持ちはめそめそするが。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。