2025.04.06

奥さんは早起きして労働していたらしい。僕は九時ごろ起き出し、猫と一緒に『耳のために書く 反散文論の試み』を読み、これはこの数日読みたいものがよくわからず途方に暮れていたところでふと手に取ったのが昨日だったか一昨日だったか、べらぼうに面白くて隙さえあらば読みたい論集で、読んでいた。それから読書会にZOOM で参加して、終える頃には奥さんは二度寝をしていたから呼びにいく。ひとまずお昼にしようと『ミニマル料理「和」』の蕎麦つゆを作って蕎麦。この前買ったプライベートブランドの乾麺がすごくまずかったので、今回は常温保存ができる半生麺。これはおいしい。つゆも簡単でいい味。『ミニマル料理』で久々に自炊へのやる気がけっこう維持されている。いつまで保つか。ちょっと物足りなくて奥さんがさつまいもの天ぷらを作ってくれて、それもつゆで食べる。猫の水飲み場を改善。十四時を過ぎるとてきめんに出不精になるし、バスも逃して一瞬ぶすくれて最低のスタートとなったが、デートとなればすぐごきげん。

東京駅まで出て、三菱一号館美術館でビアズリー展を見る。いまiPhoneがモノクロだから、外の景色がいちいち色鮮やかなのだけれど、白と黒のコントラストへの感覚も鋭敏になっているらしく、構図がいちいち面白かった。ビアズリーはプルーストとほぼ同い年。だけどプルーストと違って大戦を知ることなく死んだ。ビアズリーが描くワイルドの顔があんまりで、そりゃ嫌われるよ、と笑う。原画よりも、このころの印刷物への興味が強い。初版が廉価版と合わせても八〇〇部とかで、このころの読者の規模と密度を想像する。文字組と挿絵が緊密にレイアウトされていて、これどうやって組むんだ?と惚れ惚れする。閉館ぎりぎりまで二時間弱楽しんで、くじ引きの参加賞のステッカーが欲しかったのに、特賞のポーチと、何等かのアクキーが当たる。ロブションでお茶する。美術館は久しぶりだった。きのうの映画館も久しぶりな気がする。こうやって何かを注視するための場所に、どんどん出かけたほうがいいな、と考える。ゆっくりじっくり丁寧に。目的地があると最短距離で、なんならなしにしてさっさと到着したくなる癖がある。特に元気がないと極端で、すべて済ませた後にまでスキップしたいと思い、じれったくてあらゆる行為がうざくなる。そうならないように、ひとつひとつを時間をかけてやっていきたい、とつねに自分に言い聞かせている。

丸善で『耳のために書く』を読んでいていよいよ欲しくなった『声の文化と文字の文化』と『グーテンベルクの銀河系』、そして『数量化革命』を一気に買う。奥さんは本屋の人文コーナーの圧にきょうは耐えられなさそう、と二階の絵本グッズコーナーで待っていてくれて、レジが混んでいたので申し訳なかったけれど、向かうとけっこう楽しんでいたようで、これ読んだら泣いちゃうかもよ、と『ねこの5ふんご』を差し出してきて、覚悟して読んだから泣きはしないけれどいい本だ。絵本グッズはどれも魅力的で、あれこれ見るのも楽しくて、ふたりで物色。とうとう石黒亜矢子の湯呑みとトートバッグ、『こねこのトト』を買う。八重洲口側へと移動して、ミッフィーの店での買い物に付き添い、エリックサウスで夕食。今日も楽しかったねえ。

帰宅すると階段で待ち構えていた猫が棘っぽい声で鳴く。遅いよ、何時だと思ってるの。そう言われているようで、ふたりとも、ただいま、ごめんなさい、遅くなりました、と応えた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。