2021.03.30(2-p.53)

夫妻揃って年度末にお休みが降って沸いた。せっかくなので贅を尽くそうと銀座に出て、資生堂のパフェを食べに出かけた。周年だったかなんかの記念のパフェが出ていて、チョコレートとベリーのやつと、ラムとキャラメルのやつを分け合って食べる。パフェは喜びそのものだから、二人は幸福だった。二人は満腹になるとすべての知的活動を停止してしまう習性がある。だから昼から美味しいものを食べるとそれで一日が終わってしまいがちだ。しかし今日はパフェだ。パフェはそこまで満腹にならない。だから幸福なまま、頭も冴えていて、なんでもできる。可能性の氾濫はむしろ行動を抑制してしまう。ともすれば二人は元気を持て余して途方に暮れたかもしれない。しかし手元には資生堂パーラーでパフェを食べた人に配られる資生堂の化粧品のショップでメイクレッスンが受けられるというチケットがあったので、二人はとりあえずそこに行くことにした。男性用のご案内もあるということで二人で並んでメイクの指導を受けた。自分の顔を自分の工夫でいちばん調子いい状態まで持っていくことができるというのは面白いものだな、というか、ほっといてもツヤツヤというわけにはいかなくなった今、面白いぐらい具合が良くなる自分の顔をいじるのはとても楽しい経験だった。乳液と日焼け止めと肌色の調整を兼ねたという便利な液が気に入る。二人で見目麗しくなるという遊びはとても楽しいのでこれからもやりたい。偶然というか商業的思惑に流されるままになるというのも悪くない、と僕は考える。

日比谷公園まで散歩して、ネモフィラやチューリップを見る。思ったより桜は植っていないようだった。そのまま虎ノ門まで足を伸ばす。そういえば虎ノ門のSPBS に『プルーストを読む生活』を置いていただいてる。Twitter の紹介文がいい感じだった、と思い出して遊びに行く。正面の棚の、通路から確認できる側にはわかりやすくビジネスパーソン向けの本たちが、その裏側には既成の資本主義世界の見え方そのものを転覆しかねない本がごろごろ展開されているのが、格好よくて痺れる。虎ノ門といえば黒鳥社のお膝元、ということで、なぜだかあえて人類学やデザインの本を避けたい気持ちになって、同じくらい愛聴しているポッドキャスト発の令和GALS の本をお迎えすると決めて、一度上のフロアでフィッシュバーガーとレモンサワーでおやつ。その後戻って本を買い、ご挨拶をする。ぜひ宣伝を、ということでさっそくツイートする。繰り返しになりますが、虎ノ門のイケてるビジネスパーソンは全員コクヨ野外学習センターのポッドキャストをすでに聴いているでしょうから、日々の会社員生活に人文をインストールする実践の書としてぜひ『プルーストを読む生活』も合わせて読むことで、周囲のパーソンとの差異をどんどん際立たせていただければと思います。地階のエリックサウスで本だけ買うと、本だけですか、と言われる。そりゃそうだろう、勧められるままにテイクアウトでラッサムをいただき、また歩いて日比谷公園で飲む。おいしい。

有楽町駅のちかくの椿屋で足を休め、夜は藤村シシン先生監修のR18オトナプラネタリウム。最近の読書テーマの一つが古代ローマの性生活なので、キリスト教以前の倫理観について深夜ラジオみたいなノリでお話されているのを聴くのがとても面白かった。観賞後の奥さんとの感想戦で、どうしてもうまく説明がつかなかったのはヘラの嫉妬についてで当時の婚姻関係が生殖やイエ間の関係のみを問題としていて、快楽や愛情はむしろ家庭の外にあったのだとしたら、正妻であるヘラの行動についてのよくある説明としてある「夫の浮気への嫉妬」というのは、けっこう異質というか据わりが悪い気がする。神々の家族観は人間とは異質だったのか、それともヘラはその嫉妬深さ=夫婦間に愛情を持ち込むという特異性によってヘラたりえているということなのか。そもそも嫉妬で行動を説明すること自体があんまり筋がよくないのか、この辺りこれから調べていきたいなあと思う。あと正妻ということは側室みたいな発想があるということで、その場合正妻は側室に嫉妬するのだろうかというか、ゼウスがほうぼうから攫ってくる人間は側室だったのか、そもそも神々から数段劣った人間風情が生意気な、みたいな選民思想みたいなものが神にはあるのだろうか、そんなことを、さっきの椿屋でクーポンをもらったのでその隣にあるお好み焼き屋で話していた。きょうはとにかく配布されるクーポンによって行動を決める日だ。自由意志を程よく手放す清々しさ。

奥さんとこうして丸一日デートして遊ぶというのは久しぶりで、最近は昼だけだったり夜だけだったりした。こんなことではディズニーランドに行っても途中でばててしょげてしまう、と仮想のディズニーデートを思い描いてはしょげがちな毎日だったが、きょうこうして思う存分遊べたことでひさびさに自信を取り戻した。我々はやはり最高だな、と二人は確信し、褒め称え合う。酔っ払って帰る。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員。プルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、「家」の別のやり方を模索するZINE『ZINE アカミミ』などを制作。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。