倒れた棚は幅120、高さ90の棚を二段重ねていて、二つはジョイントの金具で連結はされていたが今度のであっさりひしゃげた。二段重ねても天井まで60センチほどスペースがあり、微妙に突っ張り棒の具合のいいやつを探すのが面倒で、そのままにしているどころか上に大判の本などを並べていた。それで一段をそのまま元の部屋に設置し、もう一つは地震の晩にはキッチン前の廊下に仮置きしていたが邪魔なのでリビングにスペースを作って移動させておいたのが昨日のことで、しかしこれもまた本の背表紙がどこまでも横に広がっていて圧迫感がすごい、と奥さんから不評だった。奥さんは体調の不調と南の方にできている二つの台風とで環境の変化に過敏な状態だし、もともとは生活用品の細々したものを置いていたキャスター付きの棚を無理やり奥に追いやってリビングの一面を本で覆ってしまう形だからそれもわかる。ではまた二段に戻すかとも考えたが高さをつけるのはちょっと怖い。結局、リビングに移動させた方の棚の左半分、幅60センチ分の四段をもとの生活用品の収納とし、はみ出た本はキャスター付きの棚に移動させて、隣室の本棚とソファの間のスペースに格納するということに落ち着いた。それで今日は奥さんが外出している間にその作業に取り掛かるのだがそもそも地震で本が落ちてからなぜか棚のスペース四つ分くらい余裕があったはずの本棚に本が入りきらない。移動を重ねるうちにますますその傾向は加速するようで、どうしたらこんな量の本が入り切るというのだ? とだんだんと腹が立ってきた。本は重い。あっちこっちに何度も往復させて試行錯誤するうちに握力も弱り、棚板を移動させようとダボを付け外ししようとするも途中からまったく取り外せなくなって指先はぷるぷる震えていやがる。家に一人なのをいいことにファック! 畜生! めんどくせー! と叫びながら、三時間くらい格闘し、ようやくある程度の納得いく形に収まった。
あと十分で午後さんとの約束の時間で、なんとか気持ちを落ち着けておく。楽曲制作のお礼と解説の予定が、もちろん話題は早々に拡散し、書くことや読むこと、社会を語ることの困難など喋り続け、けっきょく録音で二時間、そのあとに一時間は話していた。午後さんは文筆などで稼いでいく道を模索中らしく、具体的には毎日5lack の「稼がな(feat.ISSUGI)」を聴いているとのことだった。兄弟雑談は今後も何かしらの形で定期的にやっていきたい、という話をふわっとした。実現すると楽しいと思う。雑談のタイトルは「Wonderwall」ではなく「Wonder Wall」だな、と決まる。
集中力が過度に偏って、録音の編集まで猛然と済ませたあとはもうダメだった。『何もしない』をすこしだけ読んで、何もできなかった。本棚の整理でずいぶん疲れた。奥さんが帰ってきた。本棚の様子を見て、三日振りに穏やかな顔になった。外出するときに久しぶりにおめかしをしていて、あ、私外で人に会いたかったのかも、と言っていたし、それが叶ってさっぱりしたというのもあるだろう。なんにせよよかったね、と僕も嬉しくなる。
風呂場で髪の毛を刈ってもらう。さっぱりして気持ちがいい。