2023.07.02

きょうの日記を書き出そうとしてつい「2023.06」と打ってしまうが、もう七月という驚きはなく、むしろすでに八月くらいの気分でいる。奥さんが二月くらいに買った靴について自信満々でもう半年は経ってるねと言っていて気がついた。

きょうは早起きして神保町でたいへん楽しい読書会に参加して、前回の反省を活かしてパソコンを持っていったのだけれど受け取るのに精一杯でけっきょくコメントをその場で書き込むことはできなかった。この会には、センスだけで読んだり書いたりしていることに由来する耐用年数への不安を解消するために、とにかく技術として読むというのを練習できればという思いで参加していて、きょうは見事にセンス頼りの読みの危険性を指摘されて大はしゃぎしてしまった。今月はやや駆け込みでの準備になってしまったから、来月はしっかりと取り組みたい。会が終わり、デートの約束があるので懇親会はパス。帰り際、隣接するオフィスにお呼ばれして楽しい依頼をいただく。お土産みたいだ。

上野まで出て、博物館前で奥さんと待ち合わせ。奥さんとのデートは一ヶ月ぶりとかだろうか。観劇には行っているけれど、観劇はすこしちがう。一緒に遊びに出かけるというのはなんていいんだろう。僕は前日からずいぶん楽しみにしていた。古代メキシコ展を観るのだ。まずは会場の平成館前の広場でお昼ご飯。屋台がいくつか出ていて、いちばん空いているキッチンカーでタコスとテカテを買った。奥さんに読書会の話をする。広場に降り注ぐ陽光は強烈で、パラソルのあるテーブルや木陰の椅子だけが埋まってほかは誰も座っていない。ビールでうれしく喉を潤してから、お酒は展覧会のあとで、と書かれた看板に気がついた。泥酔していないので入れてもらえてよかった。FGO はすごい。それなりに下調べがきちんとしているという信頼があるし、無駄に女性になっていたりはするがとりあえず固有名詞はインプットされるから、こういう展示に来たときにあっこの名前は知ってる! 球技があったんだよね、太陽信仰があって、とうもろこしばっかりなのも聞いたことある! などと予習ができているような気分になる。ひとまず名前くらいは聞いたことがある、というのは、かなり大きな一歩のはずで、まったくの未知よりも格段に吸収できるものが増える。かなり面白くて、人もたくさん入っていた。よかったのは、会場の誰もがけっこうちゃんと知的好奇心をくすぐられてわくわくしていたことだ。なあおい聞いたか、シャーマンは赤ん坊の頃から石で挟んで頭の形を変えてたらしいぞ、なんて小突きあいながら、しっかり音声ガイド片手に鑑賞している男の子たちがいたりした。音声ガイドはもらわずに順路もてきとうに空いてるところから縫うようにそぞろ歩く僕たちも、あれこれと喋りながら観ていた。博物館でこんなにおしゃべりしながら歩くのも新鮮だった。立体の人の顔は頬骨までしっかりと作り込まれている一方、ほかの動物たちは大胆に簡素化されているところに関心の偏差を感じる。線画もそうだがデフォルメのされかたが漫画のようで、現在写実というときに想定するようなものとの距離を思う。リアリティ、ありのままを造形するというのが意味するところは文明によってまったく異なるだろう。数字の表記はシンプルな法則が見て取れてすぐに覚えられる。こんなにべつの価値体系なのに5が区切りになっているようなのが不思議だ。二時間くらいたっぷり楽しんで、これは図録を買おう、とミュージアムショップに行く。グッズはかなり微妙で、平成館はグッズには力を入れないものなのかもしれない。真ん中の本館みたいなところはいつもグッズが可愛いからギャップが面白い。図録は文字もたくさん書いてあってよさそうだった。

藝大の前の道を抜けてカヤバ珈琲を覗くと珍しく空きがあったので入る。僕はたまごサンド、奥さんはあんみつ。展示には海産や漁、塩にまつわるものがひとつもなくて不思議だった。浜がなくて断崖絶壁ばかりなのだろうか。調べてみると浜辺にも遺跡があって観光地化しているらしい。メキシコの発掘調査の困難について推測する。古代の調査よりも、現在の生活の方が大事であるというのもわかる。すでに観光地になっているような遺跡を、わざわざ研究のために数年間封鎖してしまえば、隣接するホテルやレストランなどが立ち行かなくなってしまいそうだ。展示の奇妙な空白については、まだまだ発掘が追いついていないということなのではないか、ということにした。空港の下にはいくつものマンモスの骨が眠っているという記事も出てきて、このあたりはちゃんと調べてみるとすごそうだ。

とんかつを買って帰る。奥さんは夜は友達とオンラインで通話を繋いでおしゃべり。僕はシャワーを浴びたあとベッドでごろごろしながら『私のアルバイト放浪記』を読んでいたら日光疲れですやすや眠ってしまった。はっと目覚めてとんかつを温め直す。遊び終わった奥さんと一緒に食べる。さっきまでのおしゃべりをお裾分けしてもらう。やはりここのとんかつはおいしい。店の構造もまずければ、バイトの子たちはみんな微妙なのだが、味だけは確か。テイクアウトが正解かもしれない。『私のアルバイト放浪記』を最後まで読む。社会を舐めた態度というのは眺めて元気が出る。日記を書く。隣で奥さんは図録を眺めている。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。