2023.11.19

昨晩は二人揃って酔っ払ったから冷静に止めるひともいなくて繁華街で終電を降りてカラオケでBUCK-TICK を二時間歌い通した。大きな声を出して気分がよかった。歩いて帰ったら四時前で、朝になったら喉が枯れているというのにいくら賭ける? と奥さんがいうので枯れていないほうに3000ポイントと答えるとポイント制かあと不服そうに眠った。すぐに眠った。起きたら十時半で喉は掠れていなかった。

十二時半開演のマチネが東京千秋楽の『MANKAI STAGE『A3!』』秋組単独公演の配信を観る。劇場では東京凱旋に行く予定だ。家で観劇すると幕間でアイスを食べることだってできる。エーステは僕は原作にまったく触れないままただ演劇作品として好きなシリーズだけれど秋組の公演はほかの組と較べてあまりピンと来ないことが多く、しかし前回の莇が加入するACT2! から格段によくなった。基本的に独り語りが多いのが秋組の特徴で、奥さんによるとこれはゲームの場合は長所らしい、というのもフルボイスのゲーム版では録音がおそらく別録りでやりとりがかなり小慣れていないらしく、秋組のように各々が訥々と語り続けるようなありようのほうが映えるということだ。劇中劇もどうやら文章表現に最適化されたものが多いらしく、舞台版はかなりの改変が入っているらしい。たしかに他の組と比べても、秋の劇中劇はよくわからない──これは難解であるというわけでもなく増改築を繰り返した建物のような不可解さがあるというような意味だが──ことが多い。ということはこれまでピンと来ていなかったのもこの座組の瑕疵というよりも原作ゲームからのアダプテーション上の困難に起因するものもあるのかも知れない。今回はとくに一幕がよかった。僕はこれまで七尾太一がかなり嫌いで、それははじめにやらかす悪行がまじで無理だったからなのだが、ここにきてようやく劇団員による赦しに納得することができた。なんなら秋組における六人目は莇ではなく太一であるとまで言ってもいいように思うというか、そのくらい僕は太一を認めていなかったのだなと知れた。二幕もいい話なのだが、劇中劇の不可解さが過去最大のもので、これはのちのち原作との異同を確認してなんとなく納得できた。しかしこのアダプテーションはあまりうまくいっていないのではないか。なんにせよ劇場で見るのが楽しみだな、と思えたのでよかった。文句でない部分はそこできちんと書くことになるかもしれない。

夕方はシネコンに出かけてゲゲゲの映画。講談社ノベルスの横溝正史というか、奈須きのこと京極夏彦にかぶれた者が『犬神家の一族』をリライトしたらこうなるというような作品だった。前半の実写映画の運動の快楽をわざわざアニメーションでやる倒錯的な絵が特に面白い。たとえば、人物を中央に固定して動くカメラによって流れる後景であったり、手前側に水平に捉えられた道でふたりの人物が向かい合っておりそこに垂直に伸びる下手奥側から別の人物が駆け寄ってくるシーンのロングショット、露骨なままに『犬神家の一族』のパスティーシュである屋内の撮り方など。きちんと水木しげるの精神を引き継ぎつつ、手垢に塗れた現代のオタクの好物を手際よく堂々と配置しましたというような筋立てに仕上がっている。既視感しかないので満腹感もないのだが、物足りなさはなく、過不足のないちょうどいいものをいただいた感覚でさっぱり映画館を出たのだが、来場者特典のカードを開封した途端にヒッと声が出て泣いてしまった。これは反則だ。こんなのは、泣かずにおれるか。

ハンバーグを食べて帰宅。なんだかちょうどいい日曜日だった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。