午前中は髪を切りに行く。担当の美容師が宮崎智之さんに似ている。二ヶ月伸ばした髪を整えてもらい、ようやくかわいいなと思っていたフォルムが実現する。帰りに頼まれたお使いは、難しくて断念した。
大きくて重たい段ボールが届いていた。週末に届く予定だった猫用ケージ。保護猫団体のボランティアがいま使っている型番を教えてもらって、同じものを取り寄せた。本棚の裏の窓辺に設置しようと思ったけれど、幅がぴったりすぎて四苦八苦する。あれこれと無茶もしてなんとか組み立てていったけれど、結局さいごのほうの工程でどうにもならなくなることにそこまで組みあげてから気がついて、いちいち解体して別の場所で仕切り直すことになった。愚かな二人組。
Kindle Unlimitedで『保護猫の飼い方 はじめてでも安心!保護猫と幸せに暮らすための完全ガイド』を読み、本屋で買った『猫を愛でる近代 啓蒙時代のペットとメディア』へと移る。猫のことを考えている。この一週間はずっとそうだ。一週間で猫のいる生活が始まってしまう。その速さに戸惑いがないとはいえない。文フリにはおそらくいけないだろう。とうぜん、猫のほうが気になるから。
玩具や爪研ぎ道具も買いに行って、奥さんは会社の飲み会に出かけていった。僕はスーパーでたこ焼きとメンチカツとポテチ、缶ビールを買って帰る。『しとやかな獣』を観て、べらぼうに面白い。団地の一室で家具があちこちに移動させられている、そのようすを外から窓越しに撮るオープニングから最高。空間を書き換えるさまが、その過程ごと映し出されている。そのようにして空間の意味に鋭敏になった目が、ひたすら二間の団地の室内があらゆる角度から意味づけられるのを突きつけられ続けるのだ。ほぼ全編を満たす喋くりが、一度だけはっきりと停止する。その無音の耳をつんざくような重たさに痺れる。開け放たれた扉から見える廊下と階段、窓から見晴らす空模様、さらにはテーブルの足で分割された一家の配置など、奥行きの表現も多彩。能楽と西洋のダンスが交差する場面のぞっとするような感じもすごい。大満足。
そろそろ飲もうと惣菜を温め直してビール。『北北西に進路を取れ』を観る。川島雄三とヒッチコックは同時代人でもあるのか。こちらが1959年。『しとやかな獣』は62年だ。飲みながら見るのにちょうどいい塩梅の娯楽作で、主人公の色男がとにかく無駄にモテまくる。ブロンドの美女も相まって、いまみると恥ずかしいほど白いアメリカ映画だ。面白いが、三回くらいもうおしまいかな?という瞬間があり、そのたびいちいち集中力が途切れる。それでもまだ続く。計画外の長期連載化に伴いダレてくる漫画のようでもあり、それもまた贅沢だった。
奥さんから電話がかかってくる。ごきげんに酔っ払った奥さんは声が大きく、アイスがいいかなあ、それともみたらし団子かなあ、とうきうきお喋りしながらコンビニを物色している様子、団子に決まって、お願いしまあす!と元気よくレジを通してもらうさまもスピーカー越しによくきこえる。臨場感たっぷりだね。そのまま夜道を歩きながらも電話は続き、ただいまあ、といって切れてすぐ玄関から音が聞こえる。ぺろんぺろんの奥さんと、今日の興行でぶちあげられたEVIL の愛してまーす!を見ながら団子とお茶。会社の若い子はみんな今のあなたと同じ髪型してて、見分けがつかなかったよ、と酒臭い息でにこにこ報告してくれる。ほかにも言わなくてもいいことをべらべら問わず語りに話しながら笑顔のこの人は、人間の中ではいちばんかわいい。しゃっくりしてる。絵に描いたような酔っ払いだ。