『その着せ替え人形は恋をする』の二期一話を見て、こんなにすごいアニメだったか、と驚く。手前と奥の構図が多用され、というよりも、デフォルメされたコミカルな演出以外で真横の構図はポッキーの一カットしかなく、あとはすべて斜めに奥行きのある配置で画面が続き、しかも顔やカメラがぐぐっと寄ったり引っ込んだりしてリズムを作っていく。歩く際に左右の肩が交互に上下していくところとか、笑顔が表情筋に引っ張られて肩や胸まで動く躍動感など、とにかくやたらとリッチで、デフォルメや留め絵も、レイヤーやテイストを複層化させることでまったく退屈じゃない。一期の内容をほとんど覚えていなかったので、漫画の一巻が無料で読めたので読んで、その続きからアニメで見直して、ああ、ふつうに好きなやつだったな、と思い出す。誰かの好きなものを、その好きという感情を共有できないにしても、丁寧に観察し、解釈し、理解を寄り添わせることはできるという話が、コスプレ衣装を介して変奏されていく。思春期男子の性欲への刺激をポップに楽しく描きつつ、コスプレイヤーの真剣さへの伴走を阻害する要因と設定することで、エッチな誘惑を連打されつつストイックに抗いつづけるという、この種のラブコメにありがちな欲求不満をも作劇に組み込んでいる感じもよい。
ひたすらアニメを見続けていたら、本が読みたくなり、しかし親切なものしか読める気がせず、というかなにかロジカルに積み上げていくのとか面倒、という感じで、要はリーダビリティの高い小説を読みたくなり、ミーハーな気分で『ババヤガの夜』をKindleで読む。英訳がダガー賞を受けた。面白かったけれど、ぶっ飛ぶというほどではなく、むしろ翻訳者のサム・ベットの訳業のほうに関心が向く。英訳も買うか、でもそこまで熱心に追うほどの楽しさでもなく、しかし翻訳をめぐるあれこれの諸実践の方が絶対に面白いであろうともわかる。『BUTTER』も買ったので、話題作をいちばん鈍臭いタイミングで素直に読むという気分なのだろう。小説に読みやすさや筋の面白さを求めなくなって久しいけれど、だからこそ、ぐいぐい読ませるという技術のすごさに屈託なく惚れ惚れすることができるようになってきたようで、それはけっこう嬉しい。コントロールされた熱中。
