2021.04.04(2-p.53)

昨晩の奥さんとの録音はすごく良かった気がする。四月は最悪、と愚痴愚痴していたら、いつの間にか『俺の家の話』になってそうしたら興が乗ってきてどんどん元気になった。おしゃべりって助かるなあ! とすっきりして、配信のセッティングまで終える。軽く聞き返すとむしろ愚痴パートもそこそこ面白く、ひとの愚痴というのは他人事だから楽しいというか、せめて聞き流してて楽しいように話すというのが愚痴のマナーだと思っている節がある。わけのわからないものに触れるのとても大事ということで、寝る前は『各務原 名古屋 国立』と『モロイ』を読んでどっちもかなり楽しく読めて楽しかった。

きょうは昼から友人と神保町の陶芸体験に遊びにいくことにしていて、『モロイ』を読みながらはやめに現地入りする。東京堂書店に参る気でいた。友人の到着が遅れるということで内心小躍りしながら小一時間東京堂書店を堪能することして、レジ前の“知”の泉 a.k.a 軍艦 に今も『プルーストを読む生活』が置かれていることを確認して頭が真っ白になった。嬉しすぎる! これは感謝も込めて2万は落としていかなくちゃなるめえと俄然やる気になり、三階から攻めていくことにしてまずはお目当ての夕書房のフェアを見に行って、とはいえほとんど持っているので岩波の『大衆の反逆』を選び取り、昨晩の『モロイ』の手応えの新鮮なうちにと新訳の『マロウン死す』と『名づけられないもの』を抜き取り、うろうろしているうちに表紙を見せて置かれていた『〈聖なる〉医療』が面白そうで買うことにして、連想でみなみしまさんのポッドキャストで面白そうだった『うつの医療人類学』のことを思い出して探し出してこれも決めて、ようやく一階に戻って軍艦からは夏葉社のとびきり美しい新刊を手に取る。それでレジに行くと1万5千円を超えるくらいで、本というのはびっくりするほど安い。

友人はまだ来ないので三省堂八階で催されてた古本市で佐伯一麦とフラナリー・オコナーをさらに買う羽目になる。

それで友人と餃子を食べながらろくろを回し──意識高い凡庸なトークを行なったという意味──その後文字通りろくろを回した。粘土をぺチャペチャ触るだけで幼稚な官能の喜びがあって、楽しかった。全然うまくできなくて、それも嬉しい。手の思うようにならなさを久しぶりに思い知った。もっとこういううまくできないことをやってみたいな、と思う。簡単にうまくできた気になるのはつまらない。焼き上がりが楽しみで、再び東京堂書店に戻って友人に『プルーストを読む生活』を買わせる。

それから半蔵門線で渋谷へ。散髪に出かけていた奥さんと合流。スクランブルスクエアのエスカレーターを登ると世界でいちばんのとびきりの美人が現れて、それが僕の最愛の奥さんだった。僕はカアイイネエとうわ言のように繰り返す機械になって、奥さんは春の自傷行為と称してがっつりバズカットというのに挑戦したらしい。顔の小ささが際立って、目の大きさが映えて、なにより好きように髪型を選び取ったという誇らしさを表情が雄弁に語っていて、まぶしいくらいだった。この日僕はカアイイネエとニコニコしすぎて夜には具合が悪くなった。hellbent lab. のポップアップでTシャツを買う。

雨の中大きな東京堂の紙袋を抱えて歩いていって、移転したハブモアカレーで夕食。変わらず美味しいけれど、ちょっとアクセスが悪くなっちゃったねえ、と話す。移転前から変わらないのは味だけでなく同席する客の癖の強さで、いつもは怖いくらいどちらか一方がだだ滑っているカップルなのだが、きょうはめちゃくちゃ盛り上がっていて、高い天井に反響して馬鹿デカい声がよけいに馬鹿デカかった。盛り上がっていると盛り上がっているではらはらするのだとわかった。面白かったのは、ファッション関係のふたりだったようなのだけど、留学先としての各国について話していて、ベルリンは超楽しいけど危険、ストリートでハメを外すくらいならいいけど、へたすると地球を守ろうとか言い始めちゃう、インテリすぎるとそうやって活動始めちゃいがち、みたいな話をゲハゲハしていて、サステイナブルとか言わずに軽薄さを貫くファッショニスタもまだ生き残ってるんだなあと感心した。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。