2025.11.09

公園内犬入れ禁止!!

Casual Meets Shakespeare『ヴェニスの商人CS』を見にIMAホールまで片道二時間かけて練馬の光が丘にあるショッピングモールまで出かけた。コメディとシリアスのふたつの演出があり、前者をマチネに見たあと、昼食後のソワレまでの時間を近隣の公園を散歩して過ごそうと向かうと入り口に看板があった。「犬入れ」というのは初めて見る語だ。車庫入れというのは車を車庫に入れること。振り入れというのは振付を頭に入れること。犬入れというのは後者の用法であるだろうことはこんなことをわざわざ書かないでもわかる。犬出しはいいのだろうか。つまり、まあ車庫出しという言葉はないかもしれないが、ともかく犬を出すのはいいのだろうか。何が言いたいのだろうか。公園のローズガーデンは本格的で、薔薇の匂いがむんむんで、マチネでは薔薇は薔薇だというあれが雑に引用されていたけれど、薔薇と一口に言っても種類が多すぎる。その薔薇の匂いはバニラのようでしたか? スパイシー? それとも、あとなにがあったかな、忘れました。鯨井康介のシャイロックは、卑屈さと内に滾る暴力とがコミカルな演技に宿っておりとてもよかった。コメディは主題をジェンダーに絞っていたのが賢明で、男性性の厭さにまつわる話として描くからこそ、金と法の中性が際立つようなつくりでもあった。終盤のオリジナル部分も、高崎翔太のクズっぷりとディスコミュニケーションの戯画の塩梅がとてもよく、全体としてけっこう好みだった。ソワレのシリアスがいまいちだったのは、主題を反ユダヤ主義におこうとしているからで、Casual Meets Shakespeareシリーズは毎回そうなのだけれど、現代風にリメイクする際に政治性や学術性への目配りはほとんどなく、とにかく大雑把な改変や省略が多いせいでむしろ筋を追いにくくしてしまうきらいがあるのだが、そうした杜撰さが顕著に現れてしまう主題であったと思う。『ヴェニスの商人』の需要史は面白そうだ。キリスト教を素朴に「いいもの」として受け取る観客はいたのだろうか。開演直前まで『アーレントの黒人問題』を読んでいたせいかもしれないが、アントーニオたちの欺瞞と盲目にギョッとし続けていた。ともかく、シェイクスピア劇の面白さというのはだいたいプロレスと同じで、血が有り余っているものたちがむんむんのギラギラでやらかしあうような溌剌さが魅力なのだから、しゅっとした人たちの覇気のない棒立ちが目立つシリアスはあまり乗れなかった。ショッピングモールの集中レジ前で古本のワゴンセールがあり、『妻たちのプロレス』という本を奥さんが見つけて、おお、となり、ソンタグの『イン・アメリカ』と一緒に買う。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。