2026.04.28

昨日の録音ではルドンと寝るようになってから朝の「おはよう」の一番出汁が言葉を解しない猫にとられて人同士の朝が出涸らしから始まるという話を敷衍させて、さいきん奥さん以外のことにかまけてばかりの柿内への不平不満をあれこれと話していたのだが、これを踏まえて今日からは奥さんにフレッシュな好意をつねに供給するぞと張り切った。しかし、歯が痛くて機嫌が悪く、猫にも付き纏われて余裕がない奥さんは、この家の男どもは役にも立たねえくせにくっついてきやがる、と氷のような目でこちらを一瞥してくるばかりだったので、奥さんの膝の上のルドンとふたりですんすんと鼻をくっつけあって慰め合うことしかできず、いいからそこを退け、邪魔だ、好意を押し付けてくんな、歯が痛くて具合が悪いんじゃと蹴散らされた。猫を抱いて二階に退散し、大人しく労働し、本を読み、日記を書いた。あるとき淋しい思いをさせたからといって、淋しくない時は淋しくないのだから不必要な接近は鬱陶しいだけ。そりゃあ、そう。ルドンはとにかく人にひっついていたい日らしく、抱きしめておでこを吸ってもぷふーと鼻を鳴らすだけでろくに抵抗もしない。こんなルドンでさえも気分じゃない時に同じことをしたら爪を立てて飛び上がって逃げ出していく。猫もヒトも毎日に適用される正解などなく、その日その日の気ままなちょうどよさがある。きょうの猫は甘たれで、奥さんはひりついている。僕は、僕は、いつもぼんやりしている。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は下巻の半分くらいまできた。ロッキーが辛辣に仕切り屋さんをやっていると、チャーミングが奥さんに似ているな、と思う。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。