2026.05.10

チェックアウト後はいちど解散して、川で集合する手はず。蛍池で奥さんはモノレールで太陽の塔を見に、僕は宝塚本線から谷町線に乗り継いで駒川商店街へ。日曜でも店店がやっていて、生活の活気がある。うまそうな鮮魚や生肉、野菜が安い。ここに暮らすのは楽しそうだ。アーケードの端で立ち話するおばちゃんたち。こういうのを送ってきてくれるのが嬉しいよね、そうだよ安くて構わないんだからさ、そうか母の日か。

開店時間を目指したつもりがもう先客のいるtoi books。本町から移転してから行きそびれていたのがようやく来れた格好。五坪ほどだった前のお店から一気に三倍とか四倍とかに拡大している棚を見ていると、あの五坪には到底留まらないものが凝縮され、かつ汎用性のために抑制されていたのが本町の棚で、広さを得てそれらがのびやかに解放されている嬉しさを感じた。もとから滲み出ていた海外文学への偏愛がより一層強調されつつ、それ一辺倒にならないように料理本や絵本、エッセイや画集などによって和らいでいるから人懐こさがある。じっさい、商店街の賑わいが流れ込んでくるように来客が続き、無理がない。『トピーカ・スクール』の気分のまま小説を買ってもいいように思えて小説やエッセイばかりをレジへ。マバンク、江藤、吉田、大滝、ヴァルザー。小津夜景の漢詩エッセイの続編が出ていて嬉しい。これで前作を勿体ながらず読み終えてよくなった。現金をおろしに一度出る。トートバッグもゲット。磯上さんとすこしお話しする。LVDB BOOKSが徒歩圏内らしくそわっとしたが、定休日で断念。また来るときの楽しみができた。

電車にまた揺られて九条へ。このあとは大阪城公園に向かうのだけれど、動線としてなんとなく効率がよくない気はする。まあ行きたいところに行くのがいいのだから問題はないが、さらっとスマートにやれる格好よさにも憧れる。九条も感じのいい商店街で、こちらは日曜はややひっそりしているけれど平日は生活に根付いていそうな気配は濃厚で、商店街のある暮らしって最高そうだよなあと大阪に来るたびに湧き上がる羨望がやはり湧き上がる。歩けばすぐに商店街にぶつかる気がしてる。楽しく迷子になりつつ路地を歩きMoMoBooksへ。経験則からして土足でいいか判断を迷う店はいい店である。京都にあった頃のカライモブックスなんかをちらっと想起する。構造としては急な階段からの連想でしかないがTitle やTOUTEN BOOKSTOREを思い出す。SNSを見ている感じ社会学や運動についての本へと先鋭化させているのかなと想像していたけれど、それはいい意味で裏切られる、塩梅よく肩の力が抜けた選書でこの気持ちよさは関口さんの本屋lighthouseとも通じるけれどこちらのほうが悪所っぽい気配もある、棚差しの本の前に容赦なく一冊面が出されていて本を触らないと本が見つけられない繁茂の仕方には大好きなはせしょを感じてうきうきする。本屋を見ると本屋を思い出すというのはナンセンスではあり、じっさいMoMoBooksは見たことのない棚だった。何を見ても何かを思い出す。そうした思考の脱線や混線を既知であることと取り違えやすくなることを加齢ゆえの退屈ととってしまうと楽しくなくなる年頃だ。店内に入ってやけに過去が引っ張り出されてくるのは、なによりも店内のカーペットがうちの二階のものとお揃いだったことが大きい。飛び回るルドンが爪を痛めないように選んだ赤のカーペット。そもそもMoMoBooks を知ったのは『r4ンb-^、m「^』の注文からだったはずで、勝手にあれこれ縁を感じてしまうのだった。人懐こさと鋭さ、無邪気さと真摯さとが平熱で同居するようなここでこそふさわしいなと長らく書店群に積んでおいた『バッド・フェミニスト』をいまさら贖う。そのほかにも知らなかった新刊や、買いそびれていたナオさんの本なんかをもりもりレジに持って行って店主の松井さん——H.A.Bを思い出さずにはいられない!——にご挨拶。クラフトコーラもいただいて、ちょっとお酒も出してもらっちゃって、そのまま立ち飲みスタイルでおしゃべり。天気がよかったから入っておくにあつらえてあるかなりグッドな中庭で寛ぎたくもあったけれど、松井さんとお話ししていると谷垣さんやナオさん、中川さんなど大阪にいる好きな人たちの名前がぽろぽろ出てきて嬉しくなってなんでもかんでもべらべら話出してしまう。川沿いで飲んだりもしたいですねえ、と言ってもらえてそれは絶対にやりたい。大阪に来るたび再訪の理由が重なる。これまではなんだかんだで東京の本屋をイメージして本を作っていたけれど、おそらくこれからは大阪のこの感じに向けて書くべきなのだといきなり思い至る。なくなった本屋のことばかり数え上げ、世の中悪くなるばかりと無気力になりかけていたけれど、今日ここで出た名前、気持ちよく飲んだあの人ら、その街に生活する誰かのためにだったらまだまだ書きたいこともたくさんある。

このころには荷物の総重量が一〇.五キロに達していた。うんこらせと引っ提げて、松井さんに教えてもらった安治川トンネルに向かう。川の底を通るトンネルで、業務用みたいなエレベータに自転車が続々吸い込まれてゆくのが面白い。僕は階段を使うが、まっすぐな階段を降りて直角に曲がるとまた突き当たりで直角に曲がり、ほぼ螺旋階段みたいな運動をした。川底には制服がいて、通る皆々に挨拶をしている。僕も元気よくこんにちは。

環状線で大阪城公園について、時間がぎりぎりだった。逃せば一時間後だ。必死で早歩く。二分前に滑り込み遊覧船。前に清風堂書店に呼んでもらって青木さんと中之島公会堂でイベントした時にも乗ったけれど、奥さんと二人で乗るとさらに愉快だ。重たい荷物をおろして上着も脱ぐ。汗ばんでいたのが冷房でひいていく。天井も壁もある船なんてと物足りなく思った前回と違いこの快適さが嬉しい。奥さんは川にはしゃぎながら、河岸の緑化を褒め、ずっと船が好きと思ってたけど川が好きなのかもという洞察を得る。

せっかくなので城の近くまで寄る。僕は荷物が多いので途中で挫折し木陰で待機。麓までずんずんひとり進む奥さんを見送る。見てきた、大きかった、とのこと。ほんものの社交の展示やってたよ、と「特別展 戦国人脈 ~交流する武将たち~」のパネルの写真を見せてくれた。まだ明るかったけれどさっさと帰路につこうかね、帰りは新幹線のつもりだから新大阪だ。狙っている駅弁があるらしく空心伽藍堂という高級中華のやつらしい。改札内のショップにあるようなのだけど、あのへんは551もりくろーもすごい混んでるし、残ってるかはわからなかった。大阪駅阪神百貨店にもあるようで、二段構えでトライしてダメなら諦めがつくねと乗り換えのついでに試してみることに。阪神で海南鶏飯も、いろいろ入ってるやつも買えた。改札内のは売り切れていたのでいい判断だった。チケットを券売機で買おうと思ったらなんか並びで二枚買うのが難しかったので窓口に並ぶ。そのあいだに奥さんが飲み物を調達して、お土産はなしですませた。新幹線に乗って十八時。お弁当タイムは名古屋を発車する頃と決めて、「推し旅」のエーステコラボを確認しようとしたら設定やら登録やらかなり面倒で、やることが多い!と文句を言いながらなんとかする。春組の露骨な案件くささがすごい。ただの企業が自前で作ったつまらないPRとほぼ同じ。夏組は元気があってよろしい。名古屋に着いて、とうとうお待ちかねのお弁当タイム。海南鶏飯の青梗菜、チャーシュー、蒸し鶏、炊き込みご飯がどれもたいへんおいしく、冷めてもおいしくなくてはならない弁当ゆえの味の濃さはしっかりありつつちゃんと素材の旨みがいきている。いろいろ入っているほうも麻婆豆腐がしびっと美味だったり、大満足。食べ終えるとぷつっと意識が途切れ東京。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。