2022.07.21

観劇の予定がなくなってしまった日。どうにか楽しく過ごしたかった。

これまで食べていちばん美味しかったパンケーキってなんだろうねえ、ときのう寝る前に話していて、ここかも、となった銀座の椿サロンでじゃがいものホットケーキを食べる。セットのサラダのドレッシングがやたら美味しくて、これを物販してくれないかな、そうしたら成分表を熟読するのに、と思う。にんじんがメインで、なにかしらの動物由来の出汁が効いてる感じがある。焼き上がりまでに二〇分ほどかかるのでコーヒーフロートや林檎酒を飲みながら待つ。ここのカトラリーは鍬やスコップを模していて、端的に食べにくい。イライラする一歩手前の使いづらさで、そのおかげでふわふわのホットケーキをぺろりと平らげるということがなく、そこそこ時間をかけて食べることになる。二千円かけて、二〇分待って、五分で食べ終わっちゃったらやだもんね、と奥さんが言って、この食器とも呼べない食器にはそんな設計思想があったのかと感心する。マッシュされたりバターが載ったりしている様々な形状のじゃがいもがいちいちすごく美味しい。

このあとは上野の東博の脱出ゲーム行こうかと話していたけれど、一日がかりのボリュームらしく、十四時で受付終了していたので諦める。プランB でオペラシティの三階にライアン・ガンダーの展示を観に行く。理知とユーモア。すごく好みだった。死にかけた蚊、解けないクロスワード、目配せする最高傑作、演説するネズミ、ゴドーを待つ箱。ロビーで再生されてるドキュメンタリーも面白かったのだけど、一時間あるらしく全部見届けるのはやめた。家で見れないのかな。帰ってから調べるとvimeo で見れた。字幕はないからだいぶ難儀しそうだけれど。

新宿駅の人出はすっかり元に戻っていて、奥さんは辟易として、減れよ、と呟いたが、僕たちも二人ぶん増やしている。先週の時点でこのままいくと27日には5万人を超えると試算が出ていて、それから特に制限がなされていないのだから試算の精度はそれなりということなのだろう。この不作為の結果をどう考えたらいいかよくわからなくなっている。

なんとか楽しく過ごせたね、と言い合い帰宅。シシン先生のFGO のやつをにこにこ観る。ぜひローマの専門家を読んで欲しい。シシン先生みたいな人はいないだろうけれど。普通にFGO のあり方を表象論であったり受容史として専門的に読み解く遊びはもっともっと見たい。

公演中止になると関係者が定型文として「ご自愛ください」って書くんだけどさ、そう言われちゃったらヤケを起こさずご自愛するんだよね。まったく善き呪文だよ。

今日のデート中、そう奥さんはぽつりと溢した。僕たちはご自愛した。腐らないために。また次の公演を楽しみに待てるように。なにげないお約束のような挨拶でも、じっさいに自分たちに届けられるとこうも豊かな意味内容を持ってしまうものなのだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。