2022.09.23

また台風ができた。台風自体が問題なわけではなくて、熱帯低気圧だって低気圧なわけで、どうあれ眠気はすごい。けれども台風になるとなんとなく、うっわ、と思う。これは不思議で、そもそも僕は熱帯低気圧と台風の違いを把握してない。だから科学的な定義よりも、なんか気圧下がってんな、という日々の不調の方がリアルなのだが、台風発生の報は、僕の実感とは別のところで強いリアリティを持ち、僕の実感そのものをも更新してしまう。僕の体感すら、どこか外部からの枠組において規定されている。ではどうやってこの体に信を置けばいいのか、というか、この体すら外部を相対化するための拠点としては弱いとなると、そもそも自分だけの場所というのはどこにもないのではないか。天気予報を見ずとも気圧に対応して体調は変化するだろうけれども、天気予報を見るからこそ、自身の体調への着眼点や強調点がある方向に固定されてしまっているのではないかという疑いは拭えない。

吉野家の牛丼っていまは五百円弱なのか。三百円台のイメージが強かったので、あらためてびっくりする。チェーンは安いってもう嘘だな。これならもう三百円払ってちゃんとした定食とか食べたい。でもあれか、そういう定食も千円とかになってるのか。こうやってじわじわと貧しくなってく。手持ちの数値はどうでもよくて、周辺の数値との兼ね合いで生活の貧富は決まってくる。観劇や映画も高くなってる。なにをするにせよ金がかかるのは昔からだが、かかる金の割合だけが膨らんでいくようだ。家に引きこもっているあいだに、ずいぶん暮らしにくくなっている。未来に期待できたことなどないが、だらだらと悪くなってくばかりだと気が滅入る。ずいぶんと気が塞いでいる。雨は降りそうで降らない。

夕方には労働を終わらせて、神楽坂で奥さんと待ち合わせ。そよや江戸端の妖怪展示を見に行く。カフェとしてもちょうどよいところで、半端な時間に食べて空腹だったので豚汁定食をいただく。展示されている妖怪や蛙たちもみんな可愛く、ほこほこと眺める。蛙の一輪挿しと鈴を買う。鈴は僕のお気に入り蛙のアメフクラガエルだ。四角くて愛らしい。振るとコロコロと鳴く。嬉しくてずっと振っている。

神楽坂から飯田橋までバルや食事処を眺めつつ、決め手にかけて、降ったり止んだりを繰り返す半端な天気で湿気はどんどん高まっていて、具合が非常に悪くなり、脂汗がじっとりと額を覆うので諦めて帰る。近所の気楽なイタ飯屋に入ると回復してきて、楽しくごはん。お店を出ると土砂降りだったから、やっぱり天気もはっきりしてくれたほうが助かるのだ。元気いっぱい、二人でわーん! と大声を上げながら早足で家まで急ぐ。

なぜか膝裏が集中的に濡れているズボンを使い終わった風呂場に干す。藤井隆のアルバムのティザーのはずがただのロイヤルホストのPR ビデオになってるやつを見て、藤井隆の嘘みたいなにこやかさや、大袈裟にほがらかな傾聴の姿勢に、ああ、こういうおっさんになりたいなあ、と思う。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。